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綾瀬はるかは“癒やし系”以上の存在 突き抜けた役を演じ続ける理由とは?
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アクションに磨きがかかった『劇場版 奥様は、取り扱い注意』
そんな綾瀬の最新映画主演作が『劇場版 奥様は、取り扱い注意』。2017年に大ヒットした同名ドラマの映画化だ。ドラマで演じたのは、死亡を装い、戸籍を偽造して一般人として暮らす元特殊工作員・菜美。合コンで知り合った勇輝に一目惚れして結婚し、専業主婦になるも、工作員時代の血が騒ぎ、技を活かして主婦友のピンチを解決していく。やがて菜美は勇輝が自分を監視する公安の人間であると知り、2人は史上最大の夫婦ゲンカを始める――。
劇場版で描かれるのはその後。もやもやしたドラマの結末を引っ張って完成した映画版だが、新型コロナウイルスの影響で約1年公開が延びた。
映画版ではコメディ要素は少なめ。その分アクションには磨きがかかっている。ともかく綾瀬のアクションがすごい。ドラマでも3か月前からトレーニングを受け、生活用品を使った見事なアクションシーンを見せたが、それは最終回に向けてさらに本格的になっていった。ブルース・リー主演のカンフー映画『ドラゴン危機一発』(1971)やイコ・ウワイス主演の格闘技アクション映画『ザ・レイド』(2011)で使われた格闘技「シラット」が導入されたからだ。
綾瀬はアクションシーンをほぼ自分で演じているという。映画『ICHI』やドラマ「精霊の守り人」でも披露したようにその身体能力は高い。東南アジアの伝統的な格闘技シラットは“最強の格闘技”とも言われており、危険も伴うのでそれこそ体作りが大切になる。
しかし宣伝のために出演したバラエティ番組で体作りについて聞かれても、自分の必死を見せることに抵抗があるのか、「何もしていない」ととぼけていた。でも撮影に臨むにあたり、激しい筋肉痛になるほど体幹を鍛えていたという。本当に華麗かつごっついアクションは必見だ。
綾瀬に格闘技を伝授 今後のタッグが楽しみな脚本家2人とは
先述したように綾瀬の周りには“この役をやらせたい”と思っている人々が大勢いるだろうが、中でもこの2人と組んだ時の作品は要チェックだと思う脚本家がいる。
1人は森下佳子。綾瀬の出演作品ではドラマ「白夜行」(2006・TBS)、「仁―JIN―」、「義母と娘のブルース」、「天国と地獄~サイコな二人~」などを書いている。「わたしを離さないで」(2016・TBS系)の時は、「30歳になった綾瀬を今までとは違う雰囲気の美しいものにしたい」と語った。
綾瀬が初めて心の底からこの役をやりたいと思った作品は、森下が脚本を手がけた「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004・TBS)。白血病のヒロインを演じるために綾瀬は髪を剃った。森下の脚本は「言葉がすっと心に入ってくる」と言う綾瀬。そんな彼女を19歳から35歳までのつぶさに見てきた脚本家との“ネクスト”は特別なもののように感じる。
もう1人は、今作を手がけた金城一紀。小説「GO」や「フライ,ダディ,フライ」の著者でもあり、ドラマ脚本では岡田准一主演の「SP 警視庁警備部警護課第四係」(2007~2008・2011)、小栗旬主演の「BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係」(2014・2017)や「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(2017)、そしてもちろんドラマ版「奥様は、取り扱い注意」も手がけている。
金城は武術の使い手でもある。「CRISIS」で小栗旬や西島秀俊に、「SP」では岡田准一にシラットを教えたのも金城なのだそう。そんな金城が初めてシラットを伝授した女性俳優が綾瀬。いわゆる“アクション俳優”にではないところが面白く、こちらも“ネクスト”がありそうな予感がする。
『劇場版 奥様は、取り扱い注意』全国東宝系にて2021年3月19日公開 (c)2020映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。