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仕事・人生

3.11の記憶を風化させないために毎年会話 被災したJリーガー妻の現在【#これから私は】

公開日:  /  更新日:

著者:和栗 恵

風化させたくない記憶 半年に1度は非常用持ち出し袋を見直し

 あの震災の後、私たち夫婦が毎年やっていること。それは、3月11日のあの日のことをできるだけ思い出し、「あんなことがあったね、こんなこともあったね」と語り合うことなんです。記憶が薄まらないように。あの時の気持ちを風化させないように。それが、被災して生き残った私たちがやらなければならないことだと思っています。

 震災前は2人の子どもを抱えて子育てに追われていたので、とにかく無事に1日が終わればいい、そう思っていました。目の前のことをクリアするのに手いっぱいで、先を見据えることができなかった。だから、災害に対する備えもまったくできていなかったんですよね。

 その点を反省し、今は非常用持ち出し袋を準備して半年に1回は見直すよう心がけています。もちろん子どもたちにも「ここにバッグがあるよ」って教えたり、避難経路や落ち合う場所を教えたり。ベガルタ仙台、モンテディオ山形、レノファ山口、そしてザスパクサツ群馬と、夫の移籍に伴って引っ越しをしてきましたが、その都度にこうした物と心の準備を行うよう心がけているんです。

 10年前はただただ頭の中が真っ白になっていただけなので、思い出そうとして思い出せないことが多いんですよ。いつ起こるか分からないのが災害。少しずつ積み重ねておくことが大切なのだと、あの日、知ることができました。

チームメイトとの再会で気付いた周囲の人の大切さ

「いざという時、人間関係が大切」……夫は、震災後からそう思うようになったそうです。震災後、チームは1度解散して再び集まったのですが、仲間と再会した時に心が揺れ動いたのを感じたそうです。

 友達や家族、チームメイトといった“自分の周りにいてくれる人”の大切さを改めて感じたようで、「普段当たり前に会っていた人たちと会えないことが、こんなにつらいなんて思わなかった」という夫の言葉に、私もただただうなずいてしまいました。

 今、コロナ禍で人と人との絆が失われかけていて「この先、どうなるんだろう?」という一抹の不安を抱えています。あの震災を経験して、普通に生活できていることのありがたさを知り、当たり前であることの尊さを感じることができました。一日一日が、すべて奇跡の上で成り立っている。そのことを胸に刻み、自分を取り巻く人たちに感謝しつつ、「大切に思っている・愛している」というような言葉を発信していくことが大切なんですよね。

 夫も、あの震災で考え方がかなり変わったようです。試合や練習で疲れていて、つい子どもに対して理不尽に怒ってしまった後、笑えるくらいに子どもを撫でたりして。

「家族と一緒にいられる時間は本当に幸せなもの。でも、こうやって家族が近くにいることは当たり前じゃない。それを、子どもたちにも知ってほしい」なんて夫は言っています。その思いは子どもたちにも十分に伝わっていると思います。

<終わり>

(和栗 恵)