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農業1年目のド素人 「絶対無理」と言われるイチゴの無農薬&無化学肥料栽培に挑む理由

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 佑輔

自分はいつも何を食べていたんだろう…

大きな転機となった原宿の自然食レストラン。料理で使用された食材に「生きている」と思うほどの感動を覚えた【写真提供:渡辺葉月】
大きな転機となった原宿の自然食レストラン。料理で使用された食材に「生きている」と思うほどの感動を覚えた【写真提供:渡辺葉月】

 自分が本当にやりたいことは何なのか――。潜在意識に問いながら新たな道を模索する中で、渡辺さんは運命的な出合いを果たします。

「ある時、原宿にある老舗の自然食レストランで買ったお弁当を食べていたら涙が出てきて。おいしいというレベルを通り越し、食材である野菜やお米が『生きている』と思うほど感動しました。同時に、自分はいつも何を食べていたんだろうって……」

 大学時代から農業に興味があったそうですが、このレストランでの経験を機に生産者になることを目指します。いくつかの農家を訪ね歩いた末、昨年10月に伝統的有機農法を実践している「無の会」に“弟子入り”。入社早々、代表の児島徳夫さんから「君、イチゴ担当ね」と言われ、すぐさまビニールハウス1棟を受け持つことになりました。

 これだけ聞くと、農家になっていきなり過酷な展開のように思えますが、むしろアドバンテージの方が大きかったようです。

「右も左もまったく分からない新規就農者はまず農協に行くのですが、そこで農業のやり方を教えてもらえることはほとんどありません。また大量生産している農家は忙しすぎて、素人に農業を教えている暇なんてないと聞きます」

イチゴの命を無駄にしないためにこだわった販売方法

渡辺さんが今年収穫することができたイチゴ。食べた客側が金額を決めて支払うシステムで配送することに【写真提供:渡辺葉月】
渡辺さんが今年収穫することができたイチゴ。食べた客側が金額を決めて支払うシステムで配送することに【写真提供:渡辺葉月】

 一般の農家からは「絶対無理」だと言われるイチゴの「無農薬・無化学肥料」栽培。挑戦を始めた渡辺さんですが、やはり初年度は栽培そのものの壁に直面します。

「基本的にイチゴは1株で20個ほど採れるんですけど、自分の場合は多くても5個。今回の失敗要因を挙げると寒さでした。寒さに強い品種を育てていたのですが、それでもあまりに寒すぎて、そこへの対策を怠ったことでイチゴの生育に影響が出てしまいました」

 寒さ以外にも、土作りといった土台の部分に関する課題も見つかったといいます。一方、収穫量こそわずかでも、「収穫できた命を次に生かそう」と販売方法を工夫しました。

「こちらで値段を設定せず、実際に食べてもらってからお客様が思った金額を(銀行などに)振り込んでもらうシステムにしました。その販売方法で了承していただければ、商品を配送するようにしています。なぜそうしたかというと、これならお客様一人ひとりからのフィードバックをしっかり受け取ることができると考えたからです」

 始まったばかりの農業という道。不本意な形で終わった初年度を振り返り、この新しい仕事をどう感じているのでしょうか。

「農業の仕事は『やっている』というよりも『生きている』という感じなんです。生への営みという気がしています。だから、終わりがないんじゃないかなって」

 農業未経験者によるイチゴ栽培は今後、どのような展開を見せるのか。渡辺さんの挑戦は続きます。後編では「地方移住」について話を伺います。

◇渡辺葉月(わたなべ・はづき)
1994年生まれ。神奈川県横浜市出身。小学生の頃からスポーツ漬けの日々を送り、中学時代はバスケットボール部で神奈川3位、高校では女子野球部で全国大会3連覇を達成。大学時代はランニングの指導法やスポーツ心理学を学ぶ傍ら、YMCA主催のボランティア活動などに参加。大学卒業後は東急電鉄グループが運営する学童保育に就職するも1年で退職し、沖縄県石垣島へ移住。その後、東京で2年間の保育アルバイトや飲食店勤務を経て、2020年10月に有限会社自然農法「無」の会に転職。現在はイチゴの無農薬・無化学肥料栽培に挑戦している。
渡辺葉月さんウェブサイト(「農業一年目の若手ド素人」が高品質な完全無農薬イチゴを届けます!):https://sites.google.com/view/hazukiiiiichigo

(Hint-Pot編集部・佐藤 佑輔)