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朝ドラヒロインで注目の清原果耶 新作『夏への扉』が“大人を奮い立たせる”理由とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

『夏への扉 -キミのいる未来へ-』2021年6月25日(金)公開 (c)2021「夏への扉」製作委員会
『夏への扉 -キミのいる未来へ-』2021年6月25日(金)公開 (c)2021「夏への扉」製作委員会

 現在放送中のNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」のヒロインとして、お茶の間の知名度を上げている清原果耶さん。今年1月に19歳を迎えたばかりの清原さんは、そのどこか落ち着いた雰囲気や安定した表現力で今後を期待されている若手俳優です。そんな清原さんが新作映画でSF小説の古典名作に挑戦。「時間」をテーマにした原作は、現在の清原さんにぴったりの題材だといえるようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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30年の時を経て映画化されたSF小説の古典名作

 時の流れは不思議だ。過去を振り返った時、ふとタイムマシンにでも乗ったように“あの時”が“今”と密接に関係しているように感じることがある。例えば20代前半で読んだ本を再び開いた時。当時は「今はどん底だが努力すれば輝かしい未来は必ず手に入る」とその本がくれた希望にときめいたものだが……。

 本のタイトルは「夏への扉」(ロバート・A・ハインライン著、ハヤカワ書房刊)。1956年に米国で発表され、タイムトラベルものの傑作として日本ではバブル期に人気を博したSF小説だ。あれから30年強。その地続き感は、必ずしも努力が実るとは限らない現実を知った今だからこそ強く感じるのかもしれない。

 そんな「夏への扉」が『夏への扉 -キミのいる未来へ-』として映画化された。どん底からスタートを切るのは、山崎賢人が演じるロボット開発技術者の高倉宗一郎(小説ではダン)。ともすれば、すべてを投げ出しかねない宗一郎の気力を保たせるのは謎の少女、璃子(小説ではリッキィ)。演じるのは5月にスタートしたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」でヒロインの永浦百音(モネ)に起用された清原果耶だ。(山崎賢人の崎は「たつざき」の「崎」)

若干13歳で見せた朝ドラでの好演 清楚な印象ながら同時に凄みも

 踊ることや歌うことが好きな清原は、小学1年生から5年生までクラシックバレエを、5年生からは加えてダンスに歌、ミュージカルを学んだ。バレエを学んだ者が身につける姿勢の美しさは彼女が持つ魅力の1つだと思う。

 デビューのきっかけは、家族揃って推していたPerfumeが所属する芸能事務所「アミューズ」が主催した「オーディションフェス2014」だった。母親が見つけたこのオーディションを好奇心から受けたところ、グランプリを獲得。2014年、12歳の時だった。

 翌年、早くもNHK連続テレビ小説「あさが来た」(2015)に出演。主演の波瑠、宮崎あおい、友近らと切磋琢磨する女中の役だ。波瑠たちの少女時代を子役が演じたのに対し、清原はすべて自身で演じた。たった13歳。デビュー間もない少女とは思えない存在感だった。

「おかえりモネ」では堂々主演。宮城県気仙沼市の沖合にある島で育ったモネを演じる。高校を卒業後、県内の登米市で林業の仕事をしながら気象の世界に惹かれていくモネは、気象予報士となってさまざまな人の人生に関わっていく。

 ここでも19歳ながら時折大人びた表情を見せる清原は、まだまだ成長していくだろうモネの未来への伸びしろを感じさせる。モネの妹・未知を演じる蒔田彩珠も芝居のうまさに定評がある俳優だが、年相応の少女らしさを感じさせるのと比べ、清原は年齢を意識させない何かを持っている。

 清楚な印象の清原は、同時に凄みも感じさせる。2017年に公開された『3月のライオン 前編 / 後編』では少年棋士である桐山零(神木隆之介)の運命を変えるヒロイン、川本ひなたを演じた。

 ひなたは、いじめに遭う友達を助けたことで逆にいじめの標的となる。そんなひなたが大粒の涙とともに絞り出した「私のしたことは絶対、間違ってなんかない!!」という言葉は、子どもの頃同じ経験をした桐山を、時を超えて救う。桐山が救われたと観客に感じ取らせる部分は清原がこのセリフを放つ場面しかない。無造作に袖で涙を拭いながらそう吐き出す清原の演技だけが、桐山の気持ちが動いたことを伝えるのだ。清原は、意志的に大人になろうとする15歳の少女の強さを感じさせた。

 映画初主演作『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)で清原は、「座長として何ができるのか、考え込んでしまうこともあって……」と語っていた。主演であるというプレッシャーの上に、座長としての責任を語る。企業に例えると若くしてプロジェクトリーダーになった者が、その企業の矜持、予算、工程、人員配置まで意識して推進するようなもの。言うならば経営側の視点。18歳の口から出るセリフとは思えない。