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朝ドラヒロインで注目の清原果耶 新作『夏への扉』が“大人を奮い立たせる”理由とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

“歳を感じさせない”清原が“時間”を描く物語で伝えるもの

(c)2021「夏への扉」製作委員会
(c)2021「夏への扉」製作委員会

 そういう意味でも清原は“歳を感じさせない”俳優なのだ。そんな清原の新作『夏への扉 -キミのいる未来へ-』は、まさに時間がテーマの映画。山崎賢人演じる高倉宗一郎は、1995年にコールドスリープにつき2025年の未来で目を覚ます。

 清原演じる璃子は、絶望の中で眠りについた宗一郎の唯一の希望。それを清原はさほど多くない登場シーンの中で表現してみせる。多くは語れないが、時間の流れを生きる者と、時間をさかのぼる者の気持ちが通じ合う瞬間で“それ”を感じさせるという演出。歳の差がある2人が、通常とは違う流れをする時間の中である種の感情を育んでいくところがポイントだ。

 清原自身もそのことを言葉少なに「宗一郎との関係性が温かくもほろ苦くしみる日々を、一時も逃がさずに観ていただければ幸いです」と語っている。

 95年を知る私たちは、4年の猶予を残しながらも宗一郎の30年に及ぶコールドスリープの間に何があったかを知っている。阪神大震災、911同時多発テロ、地下鉄サリン事件、東日本大震災……。

 そういう意味では最初に小説を読んだ時の高揚感はことごとく打ち砕かれたが(小説は1970年から2020年を描く)、映画はまた異なるもの、肯定感を感じさせるメッセージを送り出した。強いて言うとそれは箱の底に残った“希望”の文字のようなものなのかもしれない。

 その希望を成立させよと、清原のぶれない肯定感が揺さぶる。30年の時をむざむざ生きてしまった我々大人を、もう一度奮い立たせるように。

 
『夏への扉 -キミのいる未来へ-』2021年6月25日(金)公開 (c)2021「夏への扉」製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。