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仕事・人生

じゃじゃ馬から執行役員へ 老舗を変え続ける30代女性 入社20日で退社決意した過去も

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

プロジェクトを通じて学んだ「風通しのいい組織を作る大切さ」

「船橋屋」はくず餅一筋216年の老舗【写真:臼田洋一郎】
「船橋屋」はくず餅一筋216年の老舗【写真:臼田洋一郎】

 広尾(渋谷区)でのカフェ併設店オープン、通販サイトの立ち上げ、新卒採用の強化、SNS対策……。新たなプロジェクトの中心には、佐藤さんの姿が必ずありました。経験を積む中で感じたことは、風通しのいい組織を作る大切さだったといいます。

 職人、販売員、本部と“縦割り”だった社内の垣根を取り払うため、新卒採用の面接官を工場長や部課長にも任せたり、“職人がくず餅にかける想い”を販売員に伝えるために合同研修を開催したり。

「横にもつながる組織ができたので、部署を超えて連携するのも普通になりました」

 社内の風通しが良くなると、自然と業績が伸び、会社は成長。その他の試みも奏功し、新卒採用応募数は大幅アップしました。

執行役員だから「偉い」という感覚はない

 そして2015年、大きな転機が訪れます。社長に次ぐナンバー2を選ぶ「リーダーズ総選挙」で、投票権を持つ社員と勤続5年を超えるパートスタッフの何と過半数が佐藤さんに投票。33歳の女性執行役員が誕生しました。もちろん、同職に就いてからも大切にしているのは「横のつながり」です。

「私1人では全部できませんから、部課長の協力が大事。現場の声を大切にしたいのでヒアリングしてもらい、毎月の部課長会議でそれぞれが持つ課題を共有し、解決法を探っていきます。部課長も1人で悩むのではなく、他部署と協力できることはすればいい。私より年齢が上の部課長もいますが、執行役員だから偉いという感覚が私にはなくて、むしろ良い意味で甘えさせてもらっていますね(笑)」

 肩書きや年齢が上がるほど「弱みは見せられない」と身がまえてしまうもの。でも、佐藤さんは「自分が苦しくなる前に、周りに相談することを意識しています」と協力を仰ぐことを厭いません。

「このポジションに就く前は、勢いだけで自分の目標を達成することにやりがいを感じていました。でもマネジメントする立場では、自分だけの成果ではなく会社全体という視点から物事を見るようになります。となると、やっぱり横のつながりで協力することは欠かせません」

長寿企業でも大切にしたいものは「若手の勢い」

 入社から17年。船橋屋は江戸時代から受け継ぐ伝統を守りながら、心地よい新風が吹く企業へと成長しました。執行役員として指揮を執る佐藤さんは、夢と希望に目を輝かせる若手社員の力に期待を寄せています。

若手社員に声をかける佐藤さん【写真:臼田洋一郎】
若手社員に声をかける佐藤さん【写真:臼田洋一郎】

「若い子の力ってすごいと思っているんです。若ければ若いほど『今時の若者は……』と言われがちですが、本当に優秀。時代にあった新しい感覚に対して、逆に私たちが学ぶ姿勢を持つことが大事だと思います。長寿企業ではありますが、若手の勢いを大切にしたい。『経験が浅いのに……』『女性だから……』という見方は取り払いたいですね。私たちにない発想を無駄にするのはもったいないですから」

 理解者の登場により入社20日のスピード退社を思いとどまった元“じゃじゃ馬”は今、若手社員の良き理解者となり、船橋屋の新たな歴史を紡いでいます。

◇佐藤恭子(さとう・きょうこ)
1981年、埼玉県生まれ。十文字女子学園大学を卒業後、2004年に船橋屋入社。小田急百貨店新宿店和菓子売り場、「こよみ」広尾店の立ち上げ、通販事業部立ち上げ、新卒採用担当などを経験。2015年に社内の「リーダーズ総選挙」で過半数の票を得て執行役員に選ばれる。2016年から一般社団法人「くず餅研究所」研究担当を兼務。2019年には株式会社くず餅乳酸菌LABOを設立し、取締役に就任した。乳酸菌飲料「飲むくず餅乳酸菌」の他、乳酸菌発酵化粧水など新事業を手がける。趣味は船橋屋の歴史研究。コロナ禍の影響で通販サイトでの注文が殺到した際は発送業務を手伝うこともあり、「私、梱包が早いんです」と意外な特技を発揮している。

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)