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子役から朝ドラヒロイン、大人の役者へ 『キネマの神様』で永野芽郁が託されたものとは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

成長と同時に「下の世代に伝えていく」ことを意識する永野

「芝居に対して貪欲になった」という2作品を経て、2017年、永野がオーディションで勝ち取ったのは連続テレビ小説「半分、青い。」のヒロイン役。一筋縄では行かない発想の持ち主、楡野鈴愛の約40年間を演じ、視聴率、内容ともに高評価を得た。

 この後の永野は、肩の力の抜けた演技で快進撃を続ける。シリアスな「3年A組 -今から皆さんは、人質です-」(2019・NTV)しかり、コメディ調の「親バカ青春白書」(2020・NTV)しかり。永野の演じる役の絶妙な存在感が、作品の色を明確にさせることに貢献していた。

 放送中のドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」で永野が演じる川合は、安定した職を求めてさまざまな公務員試験を受け、たった1つ合格した警察官になった現代っ子。そんな覚悟も目標もないへっぴり腰な川合は、交番勤務のコンビとなった凄腕の巡査部長・藤(戸田恵梨香)の背中を見ながら成長していく。

 はしゃぎ過ぎず、ボケ過ぎず、リアルとコメディの中間を川合に歩かせる。堅調な視聴率はそんな空気が生み出していると言っても過言ではない。

「共演者と話すのは苦ではない」と言う永野。話すというよりむしろ、共演者を観察し、演技はもちろん人間としての長所を見抜き、吸収しているように思う。驚くことに永野はこう言う。「感動したことは自分よりも下の世代に伝えていきたい」。吸収するだけではなく、別な世代に伝える媒介にもなるというのだ。

巨匠・山田洋次監督が永野に託したい“バトン”とは

(c)2021「キネマの神様」製作委員会
(c)2021「キネマの神様」製作委員会

 そして冒頭の山田監督『キネマの神様』。原田マハの同名小説からインスピレーションを得た山田監督は、原作者の同意を得て、朝原雄三とともに換骨奪胎。映画をこよなく愛するダメ男・ゴウの生涯を、助監督として撮影所を走り回っていた50年前の青年時代(菅田将暉)と、借金まみれが判明した現代(沢田研二)に分けて描くことにした。

 2つの時代、2人の俳優に分けたのには、山田監督の思いが込められている。それは「この映画を新しい時代の映画へのバトンにしたい」というもの。

 永野の役どころは、撮影所の門前にある食堂「ふな喜」の看板娘、淑子。ちょくちょく食堂に訪れる青年時代のゴウに思いを寄せる。永野は「ふな喜」でのシーンについて、「人と人との距離がとても近い」と言っている。

 食堂ではスタッフもキャストも関係なくご飯を食べ、酒を飲み、語り合う。「撮影を終えた人々がご飯を食べにくるシーンで、違う組の人も一緒に食べている。現代より皆で一緒に生きている感じがする」と永野は言う。

 本来、撮影所とはそんなふうに作品ごとの縦割りではない人間関係があった場所。そこから創出されるものも多かった。山田監督は休憩中、よく永野に松竹大船撮影所時代の話をしたのだそう。もちろん「ふな喜」のモデルになった「松尾食堂」の話も。

 昔の話にあるものこそ山田監督が永野に託したいバトンなのではないかと思った。今あるやり方に縛られないでほしい。正解は1つじゃない、柔軟に取り組んでほしいと願う。

 山田監督は永野を「勘がいい」と買っていたという。いずれ感じ取った何かを伝えてくれるだろう。そんな期待も込められた言葉のように思う。

 
『キネマの神様』ロードショー公開中 配給:松竹 (c)2021「キネマの神様」製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。