仕事・人生
老舗和菓子屋に吹いた新たな風 “歴女”執行役員がつなぐ歴史のバトン
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時代に合った革新的なことに取り組むのは、その時代を任された人たちの役目
長寿企業の中でよく聞くのが「伝統とは革新の連続である」という言葉。守るべきものは守りながら、時代の変化に合わせて変革してきたからこそ、長寿企業は何世紀にもわたり人々から愛され生き残ってきました。佐藤さんもこの言葉の重みを実感する1人です。
「長寿企業を見てみると、例えば明治維新という大きなインパクトを乗り越えた企業は、時代に合わせて臨機応変に変革できたところが多いんです。船橋屋の場合、6代目は戦後復興のイノベーション、7代目は百貨店進出による事業拡大という変革がありました。どちらも労力がかかる大変なことだったと思いますが、『つらいからやめよう』とはならなかった。『もっと船橋屋の価値を広げたい』『くず餅を知ってもらいたい』という共通の思いが強かったからこそ、216年も続いてきたんでしょうね」
歴史をつなぐという価値観から見ると「時代に合った革新的なことに取り組むのは、その時代を任された人たちの役目だと感じています」という佐藤さん。進化し続けるためにも「若い世代を知ることは大きなテーマ」と力を込めます。
「時にはびっくりもしますけど(笑)、若い世代はやはり感覚が面白い。そこに多大なヒントがあって、どう生かすかが重要になると思います。社会現象にもなった大人気アニメとのデザイン商品開発でも、若い世代が大活躍でした。どのアニメでも良かったわけではなく、船橋屋との親和性が大切です。216年続く歴史の中で、アニメとコラボするのは初めてのこと。私はアニメに詳しくないので若い人たちにサブとして付いてもらいながら、今から100年後に『8代目の時代はすごかった』って言われることをしようと、価値観を変えて臨みました」
船橋屋の歴史において任された“今”を盛り上げるために
発酵和菓子でもあるくず餅。そこに含まれる「くず餅乳酸菌」に着目した商品開発もまた、文系で歴女の佐藤さんにはハードルが高かったそう。それでも、後世に「8代目の時の乳酸菌開発が今につながっている」と言われるような「新たな歴史を作りたい」と、価値観を変えて取り組んでいます。
「『皆さんに健康をお届けしたい』という船橋屋の新たな思いを担当することは、新たな歴史を作ることができるということ。数十年後を想像した時、200年以上続く歴史の中で大きな価値のある仕事を担当させてもらっている……そう考えると、乳酸菌についてゼロベースから学ぶことも苦痛ではなくなります。また、未来につながる土台を作っていると思うと、『やっていて良かった』と思えてきます」
船橋屋の歴史において任された“今”を盛り上げるため、佐藤さんには2つの目標があるそうです。
「1つ目は、くず餅を機能性食品として認めてもらうことです。くず餅乳酸菌の研究を重ね、学術的なエビデンスを集めて、日本の伝統的な和菓子が健康に良いとアピールしていきたいと思います。もう1つは、船橋屋の歴史を学術的にまとめること。本店のどこか一角を借りて、個人的に集めた資料を展示したり、自分でまとめている歴史をそっと置いたりしておきたいなと思っています。1人でも多くの方に船橋屋の魅力、くず餅の魅力を知ってもらいたくて」
社内ナンバー2の執行役員であり、船橋屋のナンバー1ファンでもある佐藤さん。周りの協力を仰ぎながら、新たな挑戦を恐れず、老舗の伝統を膨らませています。
1981年、埼玉県生まれ。十文字女子学園大学卒業後、2004年に船橋屋入社。小田急百貨店新宿店和菓子売り場、「こよみ」広尾店の立ち上げ、通販事業部立ち上げ、新卒採用担当などを経験。15年に社員による「リーダーズ総選挙」で過半数の票を得て執行役員に選ばれる。2016年から一般社団法人「くず餅研究所」研究担当を兼務。2019年には株式会社くず餅乳酸菌LABOを設立し、取締役に就任した。乳酸菌飲料「飲むくず餅乳酸菌」の他、乳酸菌発酵化粧水など新事業を手がける。趣味は船橋屋の歴史研究。コロナ禍の影響で通販サイトでの注文が殺到した際は発送業務を手伝い、「私、梱包が早いんです」と意外な特技を発揮している。
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)