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電車事故で手足3本を失っても「左腕がある」 壁を乗り越えてきた前向き思考はどこから?

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

アンナ「どうしたら山田さんみたいな子に育つんだろう(笑)」

事故で手足3本を失った山田千紘さん(左)と先天性上肢形成不全の愛息を育てる美馬アンナさん【写真:荒川祐史】
事故で手足3本を失った山田千紘さん(左)と先天性上肢形成不全の愛息を育てる美馬アンナさん【写真:荒川祐史】

アンナ:ご家族はどんな反応だったんですか。

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山田:実は怪我をする直前まで、僕はむちゃくちゃ反抗期でした(笑)。大学に入ってからはアルバイトで毎月30万円以上稼いでいたので、親に育ててもらっている感覚があまりなかったんです。授業料を払ってもらえずに大学を中退して、「もう全部1人でやっていくんだ」と働き始めた矢先の事故でした。

「両親は僕のことをすごく憎んでいるんだろうな」と思っていたんですけど、その逆でした。怪我をしてとげとげしさがなくなった僕は、子どもの頃を見ているようだったそうです。

 毎日病室へ顔を出してくれる両親に対して、改めて申し訳ないことをしたと思いました。五体満足に生んでもらって、20年間好き放題させてもらった。誰のおかげかといえば、両親なんですよね。だから、それに対する感謝の行動をしないといけないと思うようになりました。

アンナ:怪我が気付かせてくれたこともあるんですね。

山田:はい。僕はいつも、物事にはプラスとマイナスがあると思っています。多くの人は「失恋した」とか「仕事がつらい」とかマイナスに目を向けがちですが、どこかに必ずプラスが落ちている。

 自分の場合だと手足が3本なくなったことは圧倒的なマイナスですが、まだ片腕があることがプラスなんですよね。残ったのは利き腕ではない左腕ですが、考えてみれば、左腕が本来持っているはずの能力を発揮し切れていない。そこで字を書いてみよう、箸を持ってみようと試してみると、思った以上にいろいろできそうだという気付きがありました。

 他にも、来てくれた友達の姿を見る目はあるし、話もできるし、想いも伝えられる。当たり前だと思っていたことが、実は当たり前じゃないということに気付けたことが一番のプラスでしたね。そこから一気にモチベーションが変わって、「まぁ、手足がなくなっただけじゃん」という感覚になれました。

アンナ:私はどうしても親の目線になって、お話を聞いてしまいます。私の息子は今のところ不自由なく過ごしていますが、やはりいつか手がないことや周りとの違いに気付くでしょう。その時、山田さんみたいに「右手はなくても左手があるからこっちで何でもやってみよう」と、前向きにポジティブな要素を見つけられるような心を持った子に育ってほしい。どうしたら山田さんみたいな子に育つんだろうって、お話に聞き入ってしまいました(笑)。

山田:ありがとうございます(笑)。だからこそ、僕はさらに前に出ていく必要があると強く感じています。SNSをフォローしてくださっている方の中には、手足がないお子さんの親御さんも多くいらっしゃいます。そういう方からのメッセージを見ると、やはり「こういう風に育ってほしい」と言っていただくことが多いのですが、少し不思議な感覚もあります。

 僕は怪我をしてから自分がやるべきこと、普通のことをしてきただけだと思っています。手足がなくなっただけで、それ以外は特に変わりはない。だから事故後は、同級生が22歳で大学を卒業して社会人になる時期に合わせてリハビリを終え、資格を取って社会人として独り立ちしたい。ヘルパーには頼りたくないから、一人暮らしをするなら料理や洗濯も自分でやらないといけないと思っていました。

 だから、入院中も看護師さんにごはんを食べさせてもらったことはありません。トイレでも便座に移してくれる補助を「触らないで。誰ができないって決めたんですか。できるようになるから、それまで待ってほしい。本当に助けてほしい時は助けてと言いますから」と拒否。今考えると生意気でしたね(笑)。