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『ドライブ・マイ・カー』で注目の三浦透子 子役時代から「この仕事が当たり前の人生」

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

映画出演のため免許取得 教習自体がすでに役作り

(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――濱口監督と最初に会ったのは、『ドライブ・マイ・カー』ではなく『偶然と想像』(公開は今年12月公開予定)のオーディションだったそうですね。

 そうです。そのオーディションでは最後にテキストを少し読んだだけで、パーソナルな質問や雑談がほとんど。正直、『偶然と想像』の役に対して私はイメージじゃないんだろうなと感じましたが、「お仕事はしたいと思っています」と言ってくださった、その言葉は本当だろうと思えました。実際その後、割とすぐご連絡をいただき、渡利みさき役を演じることになりました。

――『ドライブ・マイ・カー』では、広島で開かれる演劇祭のために東京から来た演出家・家福悠介(西島秀俊)のドライバー・渡利みさき役です。映画の後半では、広島から北海道まで家福を乗せて旅をします。ご出身の北海道を加味された目的地設定だったのでしょうか?

 元々、村上春樹さんの原作でも、みさきは北海道出身の設定だったので、たまたまリンクしただけだと思います。でも、そういう一致する点もあって、濱口監督に「みさきだ」と思っていただけたのかもしれません。

――この役のために免許を取られたそうですね。みさきが母親のために運転を始めたことは、今回の三浦さんとリンクしているようにも感じました。

 みさきが母親に運転を教わったことと、私がこの作品のために免許を取得したことがリンクしているという視点は新鮮です。母親から運転を教わることが彼女の人生に大きく影響を与えたように、私も運転の練習を通してみさきから教わることがたくさんありました。

 今まで人の車に乗る機会はありましたが、人を乗せる側になったことはありません。ものすごく怖いことだと知ったし、まして人を乗せて会話しながら運転するなんて本当に難しいことだと気付きました。

 私は元々ガソリンスタンドでバイトをしていたくらい“メカとしての車”が好きなんです。車の中を見るとその人の生活が垣間見える、運転の仕方で性格が分かるといいますが、本当だなと感じました。

――運転教習自体がすでに役作りになっていたわけですね?

 まさにそうでした。実際、濱口監督から「運転教習が役作りだと思ってください」と言われていましたので、そういうつもりで練習しました。

 技術的にうまくなるのも大切ですが、この人は運転がうまい、安心して乗れる運転手なんだとスクリーンを通して伝えなくちゃいけない。一口に運転がうまいと言っても、みさきは片手運転するような人ではない。ドライバーという仕事への彼女の哲学。それを反映させた立ち居振る舞いとはどういうものか考えました。

“働く”ことについて考えさせられた作品

今年7月に開催されたカンヌ国際映画祭で。左からソニア・ユアン、三浦透子、濱口竜介監督、霧島れいか、定井勇二氏(ビターズ・エンド社長)【写真:Getty Images】
今年7月に開催されたカンヌ国際映画祭で。左からソニア・ユアン、三浦透子、濱口竜介監督、霧島れいか、定井勇二氏(ビターズ・エンド社長)【写真:Getty Images】

――みさきは後部座席にいる家福から「カセットをかけて」と言われた時、視線を逸らさずプレーヤーに入れます。この人は“今自分がしていることから絶対に目を離さない人”なんだなと思いました。

 目線の動きとかはすごくこだわりました。プロとして人を乗せる人の運転って何だろうと考えた時に、慣れてしまった運転ではなく教科書通りのことをちゃんと続けられる気のゆるみのなさなのかなと思って。実際、プロの方の運転って、一見過剰に見えるくらい所作が丁寧なんです。なので、教習所で学んだ車線変更などを忠実にやろうと意識しました。

 撮影では、自走で撮ったシーンもありますが、車両ごとを牽引していて実際に運転できないことも多いです。その時は、画面の中での見え方をスタッフの皆さんに相談しながら、協力して作っています。

――プロドライバーであるみさきの物語と並行して、演劇界の人々が描かれます。プロフェッショナルな仕事を追求する2分野の人々を並行して描こうとしているのかなと思いました。そして、その舞台をみさきが見に行くことで両者が交わる。そんな風に「仕事とは何か」を双方から描いていくのが面白かったです。

 私も演じていて“働く”ことについてものすごく考えさせられました。たぶんみさきもそうであるように、働く自分に、働く時間に支えられて人は生きている。それぞれの仕事に対する哲学もすごく美しく描かれています。

 そういう人物を演じるにあたって力をもらえたのは、この映画の現場にいるスタッフの皆さんでした。本当に素晴らしい現場で、役者も各部署のスタッフの皆さんも、お互いへのリスペクトにあふれていました。

 みさきの仕事に対する姿勢を伝えるために、どう振る舞えば良いのだろうと悩んだ時、目の前にヒントになる人たちがたくさんいた。この働く人たちの格好良さ、美しさを、みさきを通して伝えたいと思いました。そういう現場だったのは、濱口さんの人柄によるものだと思います。本当にありがたかったです。

『ドライブ・マイ・カー』(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。