カルチャー
“さらけ出すこと”を厭わない寺島しのぶ 自身の手で切り開いてきた俳優人生は新章へ
公開日: / 更新日:
寺島を覚醒に導いた2作品 「映画は自分に必要なもの」と感じるまで
この年、寺島はもう一本重要な作品に出会う。廣木隆一監督の『ヴァイブレーター』(2003)だ。廣木監督は、幻聴と過食症、アルコール依存を患う31歳のルポライター・早川玲を演じる俳優を探していたが、それは難航していた。
廣木監督はある日、広尾のバーで打ち合わせ中、ふてくれさたように飲む美しい女性を見かける。「玲が実在するならきっとあんな感じだろう」と話し、その女性が帰った後で店の人にたずねると、女優の寺島しのぶだという。寺島は『赤目四十八瀧心中未遂』のクランクイン直前だった。
すべてを出し尽くした『赤目四十八瀧心中未遂』の撮影が終わり、休みに入るつもりだった時、寺島は『ヴァイブレーター』の玲役をオファーされる。断るつもりだった寺島を、荒井晴彦は「おまえしかいないんだよ」と口説いた。「悪い気はしなかった」と寺島は語る。「やりたい役よりも、これを寺島にやらせたいという役の方に興味を持つ」のだという。常に自分の新たなる面を開拓したいのだと。
『赤目四十八瀧心中未遂』では綾という役に同化していき、『ヴァイブレーター』では玲が自分に近づいてくる感覚を味わった。この2作品で覚醒し、寺島は「とても神経を使う仕事ではあるが、映画は自分に必要なものだと感じた」と手ごたえをつかんだ。
若松孝二監督の『キャタピラー』(2010)ではベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)など国内外の賞を受賞し、『オー・ルーシー!』(2017)ではその演技をカンヌ国際映画祭批評家週間で高く評価された。
助演作『ハッピーフライト』(2008)、『ヘルタースケルター』(2012)などへの出演は監督からの直接オファーだ。寺島が映画に登場すると安定感が俄然増し“映画”になる。「昔は自分を必要としてくれる人がいると思うだけで、自分の体力を考えずにやってしまっていた」と自嘲気味に語っている。