カルチャー
“さらけ出すこと”を厭わない寺島しのぶ 自身の手で切り開いてきた俳優人生は新章へ
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山田洋次監督からの賛辞に涙も そしてまた新たな挑戦
2007年に結婚、2012年には男子を出産。息子の歌舞伎修業が始まったこともあり、仕事をややセーブしたものの、今年は『Arc アーク』、『キネマの神様』、『アーヤと魔女』と公開作が3本続いた。いずれも新たなるステージの幕開けとも受け取れる作品だ。
参加を待望していた山田洋次監督組の『キネマの神様』では、「生きた伝説を見た気がした」のだそう。演じたのは、ゴウ(沢田研二)と淑子(宮本信子)の娘・歩。原作ではゴウとイーブンな主人公であり、映画でもファンタジーっぽく処理された展開を観客の視点へとつなぎとめる重要な役割を担っている。「歩役があなたでよかったと思います」と山田監督から言われた時は思わず泣けてしまい、次のシーンの撮影では少し顔が変わってしまったと語っている。
宮崎吾郎監督の最新作『劇場版 アーヤと魔女』では、「子どもの家」で育った少女アーヤを引き取り、仕事を手伝わせる魔女ベラ・ヤーガの声を演じる。
これがまたおよそ寺島が演じるとは思えない傍若無人なキャラクターなのだが、「人生初めてのアニメの声優で、スタジオジブリさんの作品に参加させていただけるなんて夢のような体験でした。どんな環境に置かれても見事にたくましく生きていくアーヤの姿は今この時期の私たちに、必ず勇気と希望を感じさせてくれることでしょう」とコメントを寄せるように、自身の子どもの世代のための仕事という意味合いも大きいのではないか。
尊敬する母・富司純子の作品は「歳をとってから観る」
ちなみにベラ・ヤーガと一緒に暮らす妖し気な男・マンドレークの声は、『愛の流刑地』(2007)で共演した豊川悦司が担当している。
その『愛の流刑地』と『待合室』(2006)で、寺島は『赤目四十八瀧心中未遂』への出演を反対した母・富司純子と共演した。富司にとって現在の寺島は、「読むべき本や映画、舞台をすすめてくれる知恵袋」として信頼にたる存在。寺島も『あ・うん』(1989)で富司が見せた演技の素晴らしさを称え、「影響されそうなので全出演作を観るのはもっと歳をとってからにするつもり」とリスペクトする。
「あの人が出ている映画は面白いと言われる俳優になりたい」という寺島の願いは、ほぼ叶ったと言っても過言ではない。ただ自らの手で存在意義を確立した寺島の新たなるステージが始まったとあれば、やはり期待したくなる。
俳優とは普段の生活が充実していることも重要な職業。そういう意味では、次はどんなものを見せてくれるのか? 決してとどまることなく歩むだろうその先を期待したい。
『キネマの神様』大ヒット公開中 配給:松竹(c)2021「キネマの神様」製作委員会
『アーヤと魔女』2021年8月27日公開 配給:東宝 (c)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。