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大久保佳代子の泰然自若感は一体どこから 出演映画で見せた“ダメな大人のかわいらしさ”
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1971年に愛知県田原市で生まれ、千葉大学在学中の1990年に幼なじみの光浦靖子さんとお笑いコンビ「オアシズ」を結成した大久保佳代子さん。芸能界入り後は仕事に恵まれず“OL”として勤務しながら活動を続けていましたが、2000年頃から注目を集め、現在はバラエティ番組やドラマ、舞台、ラジオなどで大活躍中です。そんな大久保さんが持つ役者としての魅力を感じられる作品が映画『浜の朝日の嘘つきどもと』。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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体裁を繕う気持ちなし…女性教師役では珍しいキャラクター設定
躊躇せずエロネタを展開させ、バラエティにシュールな笑いをもたらす芸人・大久保佳代子。男性目線を意識するかわいさは一切ない。だが女性受け(共感)に走るわけでもない。誰の需要? と思わなくもないが、楽しそうに見えるのはぶっちぎりで大久保だ。大久保自身の需要なのだろう。そこが気持ちいい。
本人需要のネタに視聴者を惹きつけるやり方は男性芸人では見かけるが、あまり多くはない。大体が他者との関係性の中に笑いのポイントを見出し、それをネタとするからだ。でも大久保はひとり。エロネタ発動時、ボールを受け取ったランニングバックがごとく他者を寄せず、単独で突っ走る。潔い。潔すぎて心配になる。
そんな大久保佳代子への気持ちをなだめるかのような映画に出会った。タナダユキ監督の福島中央テレビ開局50周年記念作品『浜の朝日の嘘つきどもと』だ。
震災をきっかけに家族がばらばらになり、福島県いわき市から東京に転校した高校生・浜野あさひ(高畑充希)が、男にめっぽう弱い数学教師から“映画”という逃げ込む場所を教えられ、成人後につぶれかけた南相馬市の映画館を再生させようと奔走するという物語。大久保は、東京の高校を中退し、居場所を失ったあさひを同居させる数学教師・田中茉莉子を演じる。
いい感じにやさぐれ感を醸す数学教師の田中は、自分が朝まで一緒にいただろう男と入れ替えに、家出をしてきたあさひを受け入れる。あさひと同居中も「今日は駅前のホテルに泊まってくれないかな?」とお金を渡すという感じ。教師として体裁を繕おうなんて気持ちは一切ない。こういうキャラクター設定は女性教師には珍しい。でも、なぜか嫌な気はしない。
誰が言ったどんな解釈も、反論することなくいったん飲み込む
大久保は愛知県出身。小学生の頃からの幼なじみ、光浦靖子と「オアシズ」というコンビを組むお笑い芸人だ。東京に出るために大学を受験し、2人とも国立大学に進学。早稲田の寄席演芸研究会に入り、思い出作りの一つとしてライブ出演をかけた「プロダクション人力舎」のネタ見せオーデションを受ける。合格を機に人力舎の所属となるが、最初に売れたのは光浦だった。
テレビのレギュラーが決まった光浦とは反対に、大久保のレギュラーはゼロ。ライブ活動を続けながらも、生活のためにコールセンターで働き始める。2000年、それを逆手に取り、光浦がレギュラー出演していた「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ系)に“光浦の相方のOLの大久保さん”として登場。これを機に大久保はプレゼンスを増し、今に至る。
その当時のことを相方の光浦は、今年5月に発行した著書「50歳になりまして」(文藝春秋刊)でこんな風に語っている。「大久保さんを『OLさん』と呼んだら、怒って、奮起して、本気出すかと思ったら、むしろ自ら『OL』と名乗るようになりました」と。
光浦は、この状況を「大久保さんは、受け入れるんですよね。それが間違いでも、なんでも一回は受け入れるんです」と説明する。誰が言ったどんな解釈も、反論することなくいったん飲み込んでみせるのだと。
これはできそうでなかなかできないことかもしれない。「いちいち訂正する方がパワーいるじゃん。しかも、訂正するほどのことでもない」と大久保は答えたのだそう。