カルチャー
高岡早紀の“余裕”が光る『マスカレード・ナイト』 観客をかく乱させる存在感に注目
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どんな状況でも受け入れ、自分の生きる場所にする力
『バタアシ金魚』は、強烈に魅力的な水泳部のソノコ(高岡)に一目惚れした高校生カオル(筒井道隆)が、カナヅチながら水泳部に入部し、悪戦苦闘しながらソノコに愛を訴え続ける青春映画。本作では同級生役で出演した浅野忠信が、役のために坊主にされたのが嫌だったと後年語っているが、高岡の役もショートヘアの予定だった。
だが、バレエを続けていた高岡は髪を切るのを断り、そのために役を降りなければならないのなら仕方がないと腹までくくったのだという。結果、ロングヘアでいくことになったわけだが、ポニーテールの愛らしさはカオルが夢中になったことに説得力をもたらしたし、自我の強さはそのままソノコにつながった。ソノコがセーラー服のままプールに飛び込むシーンは、“青春の映像化”の見本のようで、今観ても胸の奥がうずく。
20歳を超えてからの作品『KYOKO』(1996)ではキューバンダンスを披露した。元々バレエを学んでいた高岡ですら難しかったというキューバのダンスは、不思議なテンポ感がクセになる。長い手足を揺らし、そのリズムに乗る高岡の踊りは、奇妙に見えながら魅力的だった。物語を観るのではなく、高岡のキューバンダンスのための映画だったのだと思う。
また当時のインタビューで、海外での長期撮影に妹と2人で臨んだ高岡の生きる力に驚いた記憶がある。彼女のどんな状況でも受け入れ、自分の生きる場所にする力に。
贅沢な顔ぶれが配置されたミステリーをかく乱させる存在感
高岡は、『忠臣蔵外伝 四谷怪談』で「キネマ旬報ベスト・テン」で主演女優賞を受賞している。その表紙撮影の際、今では考えられない話かもしれないが、こちら側のミスにより撮影内容をまるでお伝えしていない状況でスタジオに足を運んでいただいたことがある。
結局、出直してもらうことになったのだが、状況を受け入れて協力していただいたことには今も感謝している。また、何事も受け入れてしまう大きさに驚いた。まだ20代前半だったというのに。
ミスはまた別の話だが、高岡には何事も面白がることができる余裕があり、そこが余白となって観客の予想しない物語へと導いていくように思う。『マスカレード・ナイト』で演じるホテルの宿泊客・貝塚由里もそんな存在だ。
登場の瞬間から「何かしでかすのではないか」と感じさせつつ、同時に「何かを阻止する存在なのかもしれない」と思わせる。贅沢な顔ぶれが配置されたミステリーをかく乱させる存在感に、「騙されないぞ」と挑む気持ちでまた惹きつけられてしまうのだ。
『マスカレード・ナイト』 全国東宝系にて公開中 (c)2021東野圭吾/集英社・映画「マスカレード・ナイト」製作委員会
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。