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子どもの外遊び 外出制限中でも容認すべきか 臨床心理士が教えるコロナ禍でも大切なこと

公開日:  /  更新日:

著者:中野 裕子

あれこれ制限することは子どもの無力感につながることも

「子どもの外遊びはいつでも大事にされなければならない」と語る【写真:Hint-Pot編集部】
「子どもの外遊びはいつでも大事にされなければならない」と語る【写真:Hint-Pot編集部】

――SNSでつながった相手に殺される、といった事件も起きています。友達と会えない寂しさを、SNSで知らない人とつながることで紛らせているうち、知らず知らずのうちに危険な人とつながりやすくなっている、ということでしょうか。

「コロナ禍ではSNSの利用時間が増え、知らない人とよりつながりやすくなっているし、依存性が高まっていると言えるでしょう。ただ、知らない人と結び付くことが即、危険な人とつながりやすくなるというものではありません。使わせる以上、親や教師など周りにいる大人が、知らない人とつながったりするとどういうリスクがあるか、何に気を付けることが必要か、活用のメリットとデメリットは何かということを、きちんと伝えておくことが予防につながるでしょう。それに、SNS以外にその子どもを受け入れる場や人がいれば、SNSの世界だけに闇雲にのめり込む、という危険も少なくできるはずです」

――遊びについてはいかがですか。感染リスクを避けて外へ遊びに行かせたくない、と考える親もいるかと思います。どう考えたら良いでしょうか。

「感染のリスクと、外遊びをさせることによるベネフィット(恩恵)を、大人がどう考えるか、です。例えば、飛行機に乗れば落ちることがありますが、それでも落ちる確率は低いので乗るか、やっぱり避けるのか。交通事故に遭うことがありますが、だから外出しないのか。そう考えた時、子どもの体と心の健康を保ち、免疫をつけ、成長発達を促すためには、全身と五感を使って遊ぶことが絶対に必要ですから、子どもの外遊びはいつでも大事にされなければならないと私は思います。

 家庭内感染のリスクを考えれば、むしろ外遊びしていた方がいいかもしれませんし、学校での授業も青空教室、給食もピクニックにすればいいのにと思うくらいです。先ほどの国立成育医療研究センターのアンケート結果では、小学校4年生から高校生の身体的健康のスコアは標準値を下回っています。東日本大震災後、屋外での運動などが制限されたことなどが原因で、福島県の児童は肥満の子どもが増えた、という学校保健統計調査の結果があります。コロナでも同じようなことが起こっている可能性が考えられます」

――国立成育医療研究センターのアンケート結果では、小学校低学年の子どもも含め、すべての子どもたちの精神的健康のスコアも標準値を下回っていますね。

「コロナだからといって大人があれもこれも制限すると、子どもは『どうせダメなんだ』と無力感を持ってしまいます。何かが起きてもまず大人の様子を見るんです。親が夫婦ゲンカしていたらつらいし、リモートワークで部屋を追い出されたら端っこでスマホに向かうしかない。一番近くにいる大人の親が、コロナで深刻な顔をして落ち込んだり、イライラしたりしていると、それを見て不安になったり追い詰められたりして傷付く子もいます。

 とはいえ、人生100年と言われる時代ですから、一生のうちで戦争が起こったり、交通事故に遭ったりして、理不尽な目に遭うことはあるでしょう。コロナも理不尽な体験の一つですが、この状況をどうポジティブにとらえるか。これまで経済的豊かさを求めてイケイケで生きてきた大人たちも立ち止まって考える一つの機会とも言えます。カチカチに固まった考え方をほぐして、『100年の中の2、3年だ』ととらえて、どうすればこの理不尽な状況を乗り切れるか、知恵を絞るしかないですよね。

 警察庁のまとめでは、昨年1年間の小中高校生の自殺者は479人に上り、一昨年より140人も増えています。私はこれからこの数値がどうなっていくのか危惧しています。コロナ禍を改めて子どものウェルビーイング(心身と社会的な健康を意味する概念)の視点でとらえ、家族や社会でどう乗り越えていくかが問われているのではないでしょうか」

◇武田信子(たけだ・のぶこ)
1962年生まれ。子どもの養育環境の改善をテーマに東京大学大学院で心理臨床を、関東中央病院で分析的精神療法を学んだ後、カナダのトロント大学でソーシャルワーカー養成を、アムステルダム自由大学でオランダの教育を研究。武蔵大学人文学部教授を経て2021年5月、子どもたちの養育環境改善に取り組む「一般社団法人ジェイス」を設立し代表理事に。また、「やりすぎ教育 商品化する子どもたち」(ポプラ社刊)上梓。プライベートでは2児の母。

(中野 裕子)