Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

カルチャー

「ドラゴン桜」で注目の志田彩良 『かそけきサンカヨウ』に見る大成長を遂げそうな理由

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

「志田さんの感覚、俳優としての生理を信用している」と今泉監督

(c)2020映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会
(c)2020映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会

『かそけきサンカヨウ』は、2人で暮らしてきた父(井浦新)から再婚したいと告げられた高校生の陽(志田)が、自身の将来と恋、そして離婚して以来会っていない実母への気持ちと丁寧に向き合いながら成長を遂げていく物語。陽が恋をする清原陸には「ドラゴン桜」でも共演した鈴鹿央士が扮している。

 映画監督は、演出上のチャレンジをしていくにあたり、多く語らずとも自分の演出意図を理解してくれる俳優を作品の中に配置することがある。例えば黒澤明監督作品全30作品のうち21作に出演した志村喬。脇で作品をがっちり支えることもあれば、『醉いどれ天使』(1948)、『生きる』(1952)など主演作もある。

 今泉監督は志田の起用理由を「志田さんの感覚、俳優としての生理を信用している」からだと語る。「『パンとバスと2度目のハツコイ』の時から、彼女が“なんかやりにくいな”と思う部分、その違和感を表出できる姿、素直さに惹かれていました。例えば俺が『こう演じてみて』と言ったとしても、役として違うと感じたら『それはできないかもしれません』とちゃんと自分の感覚を伝えてくれる。そういう部分が信じられるところです」と。

 実際、撮影ではこんなことがあったそうだ。陸と初めてデートをした日、陽にとってショッキングなことが起きる。何が起きたのか陸に詳しく説明しないまま帰宅してしまった陽は、部屋に入るやベッドに飛び込む。志田が演じたそのニュアンスを今泉監督は「そういう動きにはならないのではないか?」と指摘。それに対し志田は「たぶんこうなると思います」ときっぱり答えたという。

 こんな風に答えられる俳優はなかなかいない。たぶん志田は演じているのではなく、陽として生きているのだろう。だから迷いなく言えるのだ。今泉監督が俳優にとって言い出しやすい環境を作っているからとも言えるが。

 志田は、「『パンとバスと2度目のハツコイ』の時にお芝居ってこんなに楽しんだと実感した」と語っている。「今泉作品に出させていただく度にお芝居の楽しさを学ばせてもらっている」と。

決して焦ることなく、自分のペースで歩んでいく志田彩良

『かそけきサンカヨウ』では、主人公である陽だけでなく、陸の成長も描かれる。いや、それだけでない。陽の父の再婚相手の美子(菊池亜希子)と連れ子である義理の妹。陸とその母(西田尚美)と祖母(梅沢昌代)。陸と陽の友人である鈴木沙樹(中井友望)、有村みやこ(鎌田らい樹)、宮尾数人(遠藤雄斗)。主人公以外の人物が背景になることなく、それぞれ背負う物語が横軸、縦軸となって糸のように綴られる。

 例えば陸の家庭の物語。威圧的な祖母と母の関係がギクシャクしているように感じる陸は、父の再婚で家事仕事の負担が減ったという陽に、「家庭に女性が複数いるのは大変だろう」という。

 分かったつもり、気を遣ったつもりだったが、陽から「オープンに話しているからそんなことはない」と言われ、ハッと気付く。大変なのはむしろ自分の方だと。腹に溜めている自分の家こそ問題なのであり、それを解決している陽が大人に見えてしまう。

 エピソードとしては小さいが、こうした小さいエピソードを丁寧に積み重ねて描くことで、『かそけきサンカヨウ』はとても豊かな作品となっている。

 志田彩良はそこに大きな存在感を示す。決して焦ることなく、自分のペースで歩んでいく志田彩良。自分のいい部分も悪い部分もフラットに受け入れ、あがくことも焦ることもなく生きるのは、とても難しいことだ。それを淡々とこなす彼女の名前はぜひ憶えておきたいと思う。きっと忘れさせてはくれないだろうが。

 
『かそけきサンカヨウ』 10月15日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開 配給:イオンエンターテイメント (c)2020映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。