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高校生の三角関係描く『ひらいて』 芋生悠が役で伝える「人が人を許すことの難しさ」
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演じるキャラクターから感じる他者への愛
芋生悠は2014年、ジュノン・ガールズ・コンテストのファイナリストとなり、芸能界に入った。当初はモデル志望だったが、コンテストで朗読をした際に演じることに興味を持ち、2019年に上演された舞台『後家安とその妹』で芝居の面白さに気付き、俳優としての覚悟を決めた。
『ソワレ』は『後家安とその妹』のプロデューサーだった小泉今日子と、企画・脚本・演出を務めた豊原功補が制作した作品。刑務所帰りの父親から激しい暴行を受けるタカラを演じ、「やっと役者をやっていますと言えるようになった」という。「自分のなかで“経験”は毎回の課題なんです。目の前で起きること、経験できることはどれも大事にしていきたい」と気付いた。
芋生は学生の時にイジメにあい、美術室で一人絵を描くことで乗り切ったと語っている。母親が気付き、逃げることを肯定してくれた。彼女が今こうして俳優としてのキャリアを重ねているのも、彼女を大切に思う人の支えがあったからだ。
それらも一つの経験と大切に受け止めているからなのか、彼女が演じるキャラクターを見ていると根本に愛を感じる。それも自分への愛ではなく、他者への愛を。
役を通して観客に手を差し伸べる俳優
『ひらいて』で驚くのは、前述した性交シーンで愛を受け入れる時の美雪が、愛の暴挙をすでに許していたと感じられることだ。目線ひとつの演技ではあるが、それを感じる。
愛が事実を話した時も、美雪が怒ったのはその残酷な行為にではなく、愛が「心から悪いと思っている」と嘘を口にしたことに対してだった。
『ソワレ』の時のインタビューでは、映画を観てもらうことで「今救いの手を差し伸べている人たちをみんな救い出したい」と語っている。そして『ひらいて』では「長く続く夜から覚めたような日々でした。あの苦しみに揺らぐ姿を抱きしめることが定めだったような気がしています。あなたを、彼女を、私はこれからも愛しています」とコメントしている。
このコメントを読んだ当初は、いったい誰に対してのメッセージなのかと思ったが、映画を観て再度考えた時、芋生悠という俳優は役を通して観客に手を差し伸べているのだと思った。
その時の彼女は100%、役を生きていたのだろう。そして美雪として愛やたとえを抱きしめたのと同時に、無条件に肯定してくれる存在を欲している観客がいたとすれば、その人をも抱きしめたいと思った。そういう風に受け取った。
芋生はアクションも得意とする俳優らしい。思う存分に彼女が活躍するアクション映画を観られる日もそう遠くないと思っている。
『ひらいて』 10月22日(金) 全国ロードショー 配給:ショウゲート (c) 綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。