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話芸のプロ直伝「伝わる話し方」 講談師・神田陽子が教える“人を惹きつける3要素”とは

公開日:  /  更新日:

著者:中野 裕子

祖父母と話す時のようにゆっくり丁寧に 思いやりある話し方を

講談から落語、お笑いライブまで楽しめるお江戸上野広小路亭前で【写真:山口比佐夫】
講談から落語、お笑いライブまで楽しめるお江戸上野広小路亭前で【写真:山口比佐夫】

 学生に講談を教える時、テンポ良く話すことも基本だとお話しました。しかしこれは、単に速く話すということではありません。強弱をつけたり、ゆっくり話したりというのも意外と大事。

 知り合いに、祖父母にかわいがられて育ったという女性がいます。彼女は学校を出た後、大手の銀行に勤めていました。最初は支店に配属されたのですが、すごく良い成績を収めて本店勤務に。そこでも良い成績を上げているそうです。

 彼女の強みは話し方にある、と私はみています。祖父母と話をするように、ゆっくり、丁寧に話し、さらに何度も同じ話をするのを厭わない。その話し方でこちらの話や思いを理解してもらい、信頼を得て、成績を上げていたのです。

「言わなくても分かるでしょ」と思い込んで伝える努力をしなかったり、早口でパパパッと話して「さっき言いました」と開き直ったりしていると、いつの間にか溝が深まります。そうではなくて、丁寧に何度も伝える。彼女は祖父母相手にそうしたコミュニケーションの取り方を身につけていたおかげで、お客様によく伝わる話し方をしていたのです。

まずは相手に興味を持つ 時には褒めることも有効

 私にも似たような経験があります。4人いる弟子の失敗を注意した際、「すみませんでした!」と返事があったのに、また同じミスをしている。「反省していないのかしら」と思うことがあるんです。でも、様子を見ていると、どうも心ここにあらずで、気持ちがこちらに向いていない。こちらの話を聞き流してしまっているようでした。

 そういう時は、家庭に問題が起こっていたりする。だから、それとなく「何かあるの、話を聞く用意はあるよ、助けるよ」という姿勢を示したり、話しかけたりしてみる。上から頭ごなしに決めつけて叱ってもダメ。一緒に仕事する仲間も家族のようなものだから、気長に助け合う気持ちで付き合うのがいいと思います。

 また、相手に心を開いて話をしてもらうには、先に自分のことを知ってもらうようにするといいですね。職場でもママ友のグループでも、人それぞれ家族構成や育ってきた環境などが違います。

 だから、まずありのままの気取らない態度で接して和んでもらって、自分をオープンにした上でこちらを知ってもらう。相手には興味を持って話しかける。そうすれば共通点が見つかって、会話が生まれてきます。

 自分が年上の場合は、相手を褒めるのもいいと思います。私は講談師を目指した時、2代目神田山陽に弟子入りしました。しかし、当時の講談界は男ばかりの男社会でタテ社会。「女に講談ができるか」と言う人も多く、挨拶をしても無視されたりいびられたり。かえって、「負けるもんか」と粘れて感謝しているのですが、師匠がかわいがって褒めてくださったことも頑張る力になりましたね。

 褒めない人は多いですから、褒めてもらえると心に残ります。相手の気持ちをつかみたかったら、口に出して褒めてあげると良いのではないでしょうか。

◇神田陽子(かんだ・ようこ)
5月19日、東京・中野区生まれ。成徳学園高校(現・下北沢成徳高校)卒業後、女優を志望し文学座附属研究所に入ったが、1979年の卒業後は講談師・2代目神田山陽(故人)に入門。82年には二ツ目に、88年には真打に昇進。以降は女流講談師の草分けとして、「ウィークエンドライブ 週刊地球TV」(テレビ朝日系)、「笑いがいちばん」(NHK)などテレビやラジオでも活躍。2016年、一般社団法人日本講談普及協会を設立し代表理事に就任。16年度、早稲田大学人間科学部卒。人気講談師・6代目神田伯山は兄弟子の弟子(=甥弟子)にあたる。21年11月1日から10日まで「新宿末廣亭」で夜席の主任(トリ)を務める。

(中野 裕子)