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美しき“小悪魔”から寛容を願う母へ…加賀まりこの人生を刻み付けた映画『梅切らぬバカ』

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

「あんた直すの下手ね~」と愛を持って対応し続けた加賀

(c)2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
(c)2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

 加賀は若い頃から、相手が誰でも思ったことをはっきりと言うタイプだったという。『乾いた花』では篠田監督に反論し、『とべない沈黙』(1966)では共演した蜷川幸雄とのキスシーンを「ロングから狙っているから」と断った。

 そのメンタリティは今も昔も変わらない。でも、加賀の「はっきり言う」は決して道理に合わないものではないのではないか。多くの人間が“飲み込んで”口にしないタイプのものではあるかもしれないが。

『梅切らぬバカ』の和島香太郎監督は、パートナーとともに自閉症の子どもを育てる加賀に尊敬の念を抱き、珠子を脚本上で肉付けしていく際に意見を乞うようにしたという。修正したシナリオを送ると加賀はすぐに電話をくれ、「あんた直すの下手ね~」と言いながらダメ出しをしてくれたのだそう。愛を持って。

 このエピソードについて筆者は加賀に尋ねた。その答えは「ダメ出しなんてしていない」というもの。真顔での返答は印象的だった。それは事実なのだろう。長編商業映画デビューとなる和島監督にとっては、信頼に足る、愛ある“ダメ出し”であった。でも、加賀にとっては現段階で伝えるべき単なる“意見”なのだ。たぶん。少し言葉は強めだったかもしれないが。

 2人のこのやりとりが、映画を豊かにしたのは間違いない。珠子が息子に「ありがとう」を伝えるシーンがある。それは監督と加賀のこのやりとりによって生み出されたものだ。リクエストしたのは加賀。和島監督は長考の末に脚本にした。映画の核となるシーンとなった。

未来を少しでも寛容なものにしたい…和島監督と加賀の願い

 加賀は、姉と同じ歳の脚本家、向田邦子を敬愛し、さまざまに影響を受けたという。もっともそれは共感という形の影響ではなく、向田の描く家族と、自分の家族の女性像の違いに気付かされ、考えを新たにすることがあったということのようだ。向田は、加賀のそういう「はっきり言う」ことについて、いさめたことがあるそうだ。

「本当に白黒付けるの好きね。人間って、もっと白と黒の間のことを楽しまなきゃいけないと思うよ。それはもうちょっと年を取ったら分かるでしょ」と。今はその間(あわい)の分かる歳になったと本人は言う。

 外的要因によってもたらされた不寛容は、それがなくならない限り、是正するのは難しい。ただ不寛容であり続けるなら、その先に穏やかに暮らせる未来はない。

 加賀は「人は生きているだけで、誰かの妨げとなるもの」と語る。『梅切らぬバカ』の路上にまではみ出す梅は、その枝を「邪魔だ」と思う人々の不寛容さの象徴だ。梅の木があるのは往来を大きく妨げる大通りではないし、梅の実は近所の子どもにとって初めて体験する自然からの収穫物となる。決して不必要なものではない。だが、不寛容に取りつかれた時、それが何をもたらすかではなく、存在自体が気に障るのだろう。

 不寛容の原因である梅の木の未来。そして、珠子が何度も息子に言い聞かせる言葉。映画のクライマックスはそこにある。そして、そこには未来を少しでも寛容なものにしたいという、和島監督と加賀の願いが込められている。

 
『梅切らぬバカ』11月12日(金)より シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー 配給:ハピネットファントム・スタジオ (c)2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。