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監督が作った運命的瞬間 ものにした森郁月 『偶然と想像』に見る“一歩踏み出す”大切さ

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

緊張する姿が「一生懸命に見えた」 森郁月がオーディションで評価された理由

 奈緒を演じるのは今年33歳になる森郁月。小さい頃からバレエを習い、ファッション誌のモデルをしていたこともあって立ち姿が美しい。2010年に舞台『大六天魔王の最期~夏目漱石推理帳~』への出演をきっかけに活動を演技へとシフトする。

 2015年には、ももいろクローバーZ主演の舞台「幕があがる」でコンビを組んだ劇作家の平田オリザと本広克行による「若手女優発掘プロジェクト」に挑み、1474人の中から女子高生役21名に選出され、舞台『転校生』に出演した。

 森が『転校生』のオーディションに臨んだのは、演劇企画集団「THE・ガジラ」を主宰する劇作家の鐘下辰男のアートワークショップで1年間学び、芝居に対するモチベーションが上がったタイミングだった。それが方向変換のきっかけになったのだという。

 以降、ドラマ「ストロベリーナイト~アフター・ザ・インビジブルレイン~」(2013・CX系)、「ミス・パイロット」(2013・CX系)や映画『コドモのコドモ』(2008)、『ユートピア』(2018)、数々の作品に出演を続けてきた。

 本作「第二話 扉は開けたままで」のオーディションが行われたのは2019年。役への熱意にあふれた森を濱口監督は、「そんなに緊張する? ってくらい緊張されていた。それが一生懸命に見え、すごく良かった。人柄に触れた気がしました」と語る。

条件反射でセリフが出てくるまで…濱口監督の作品作り

『偶然と想像』から「第三話 もう一度」(c)2021 NEOPA / fictive
『偶然と想像』から「第三話 もう一度」(c)2021 NEOPA / fictive

 濱口監督の作品は必ず十分な時間を取って脚本の読み合わせをするのが特徴だ。1話につき1週間から10日ほど、感情を込めずにひたすら脚本を読み合わせる。条件反射でセリフが出てくるまで繰り返すのだという。

 読み合わせをしながら、濱口監督は俳優がセリフに違和感を覚える箇所を修整する。撮影が始まってもセリフは変わっていくのだという。そして、読み合わせをすることで俳優も変化していく。

「脚本(ホン)読みをしていくと、言葉の意味が希薄化していくんです。最初はセリフの意味をダイレクトに受け取り、声の中に『恥ずかしい』という気持ちが感じられることがある。でも繰り返すことによって言葉の意味にとらわれず、自動的に出てくるようになります。それでも本番で予期せぬ“感情”が入ることもある。このやり方は、言葉の多い映画を撮る上で有効であるのは確かだと思います」

 そう濱口監督が言うように、ここまでセリフが身に入っていれば、どんな予期せぬ感情が湧き上がっても対応できるということなのだろう。