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杉咲花の魅力は素直さと心の強さにあり 実力派が揃うシリーズに歓迎された理由とは
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認知したミステイクと向き合える精神力、昇華できる才能を持つ俳優
杉咲が体得したその技は、たぶん数々の失敗が作り出したものなのだろう。失敗といっても他人が気付けるようなものではなく、自分だけが理解したミステイク。杉咲はそれを認知し、向き合える精神力と昇華できる才能を持っている俳優なのだと思う。
『トイレのピエタ』では、松永監督から「嘘をつくな」と言われ続けたのだそう。杉咲は自身を「猫をかぶるタイプで緊張や恥ずかしさが外に出ないようにするタイプ」だと言う。そんなオブラートに包まれた感情の上に演技が乗ることを許さない松永監督は、人間の本当の感情が出るまでどんな手を使ってでも引きずり出そうとしたそうだ。
そうした厳しい指導がなかったとしても、杉咲はこの演技の技術を掴み取る人なのだと思う。だからこそ松永監督もキャスティングしたのだろう。
瀬々敬久監督『楽園』(2019)では、打ち上げの席で瀬々監督に自分の演技についての評価を問うたのだそう。その答えは「どうでしたか? ではない。もう撮ってしまったのだから」というもの。「私の中にもう一回ご一緒できたらいいなという思いがあって、次に生かしたいという気持ちから聞いたのですが、そう聞く自分にどこか媚びるような心があったのかも」と吐露している。
こうした杉咲の素直さ! そして、心の強さに魅了されるインタビューだ。普通、インタビューではここまで赤裸々な気持ちを語らない。自分の弱さをさらけ出すのは俳優だけでなく、誰だって怖い。それを語ることができるのは、すでに杉咲にはこの件についての自分なりの決着がついているからだろう。
クセ者たちが杉咲をウェルカムと受け入れた理由とは
『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』での杉咲は、新米弁護士の河野穂乃果を演じる。
弁護士として担当した初めての刑事事件で深山大翔(松本潤)と出会い対立しつつも、あることがきっかけで斑目法律事務所の刑事事件専門ルームの一員となり、深山と佐田篤弘(香川照之)とともに0.1%の「事実」を求めて奮闘していく役柄だ。純粋でまっすぐな、正義感のある性格だが、大の漫画好きがゆえ急に漫画の話題を持ち出し、周囲を困惑させてしまうキャラでもある。
この作品が、シリアスな事件と、抜け感のある笑いを共存させているのは冒頭に述べたように、クセの強い芸達者な俳優たちの賜物。
そして、そんな難易度が高い山に登るパーティーの一員として迎えられた24歳、杉咲の演技は見逃せない。クセ者たちが彼女をウェルカムと迎え入れたのは、彼らもまた怖さを知り、それを乗り越えてきた人々だからだろう。
『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』12月30日(木)全国公開 (c)2021『99.9-THE MOVIE』製作委員会
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。