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仕事・人生

長男の大病発覚が転機に…東大卒女性が奮闘した仕事と子育ての両立 起業への道のり

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

自分だけではコントロールできない人生が価値を大きく揺さぶった

女性が自身のキャリアを考える時、結婚と出産によるライフステージの変化はどうしても避けて通れません。市原さんは「あまり深くは考えていなかった」と振り返りますが、結婚よりも子どもが生まれたことで生活は大きく変わったのだそうです。

「結婚自体は仕事にそこまで影響を及ぼしませんでした。でも子どもが生まれた後は“自分だけではコントロールできない人生”と“自分だけでは決められない生活リズム”が、人の価値を大きく揺さぶるというか……そこが衝撃でしたね。周囲の人から事前に話は聞いていましたし、直属の上司も少し前に出産していたので、見てはいたのですが……」

昨今では、男性の育児休暇について活発に議論されるようになりましたが、それでも家事や子育てなど女性にかかる負担はどうしても大きくなります。

「夫は飄々とずっと変わらない感じで来ているのに、『何で私だけこんな風に変わっていくんだろう』って。子どもが幼稚園に入るぐらい前までは、自分の人生の中で一番負の感情が多かった時期で、つい『どうして私だけ』と思っていました」

そんな市原さんを救ったのは、ある先生から教えていただいた言葉でした。

「『子どもが生まれたら幸せになるのが当然。幸せだと思わなきゃいけない』って思っていたんですけど、『子どもに人生を左右されるという状況は、不幸せを感じる状況なんだよ』って教えてもらったんです。『それはあなたが悪いとか、あなたに母性がないとかではなくて、自分の人生をコントロールできていないという状況においては、不幸を感じても不思議ではない』と。それですごく楽になりました。すごく大変なことがあるのに、幸せな振りをしてなくてもいいんだって」

「ルイ・ヴィトン」勤務時代、仏パリへ出張した際の市原さん。店舗の上階には、偶然にも前の勤務先「アクセンチュア」のオフィスが入っていた【写真提供:市原明日香】
「ルイ・ヴィトン」勤務時代、仏パリへ出張した際の市原さん。店舗の上階には、偶然にも前の勤務先「アクセンチュア」のオフィスが入っていた【写真提供:市原明日香】

産休が終わって職場に復帰したものの、職場は仏パリとのやり取りが多かった「ルイ・ヴィトン」。時差の関係から夜遅くまで働いたり、イベント開催時には身動きが取れなかったりと、「仕事は仕事で自分のコントロールが効かない」ことに悩みました。そんな時、知人からバイオサイエンスのベンチャー企業を立ち上げるという話が舞い込みます。そこで「ベンチャーだと少し自由な働き方ができるのではないか」と感じ、転職を決意しました。

しかし、転職したばかりの市原さんに良くない出来事が起こります。長男の急性骨髄性白血病が判明したのです。それはちょうど、次男を妊娠中のことでした。

「当たり前ですが、まったく想像していませんでした。ただ風邪がちょっと治りにくいとか、顔色がずっと悪いとか、元気がないとか。そこで病院に行き、血液検査で分かったんです。深刻な顔をした先生に呼び出されて、本当にあの時は何ていうのか……もう『ガーン』っていう感じでした。

ベンチャー企業で自分のやり方を見出せるかどうか……という時期でしたので、長男の病気が分かった時、息子には本当に申し訳ないのですが『これで私の仕事人生は本当に終わったんだ』と思ってしまったんです。だから本当に、いろいろな意味でショックでしたね」