Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

カルチャー

レディー・ガガ 渾身で表現した実在スキャンダル 時代を超えて浮かび上がるものとは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

「常に自分自身と戦っている」監督が語るレディー・ガガ

(c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
(c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

「キャスティングがうまくいけば、良い映画にすることができる」とスコット監督は本作のキャスティングを手放しで絶賛する。「彼らは自分の持ち味を発揮し、パートナーとして私を助けてくれる」と。

 また、「レディー・ガガは常に自分自身と戦っている。それが彼女のエンジンとなり、それを自分で運転して動いている」のだとも。ガガはこの部分においてもパトリツィアと大きく異なる。パトリツィアはいわば、自分では動かない“観賞用の高級車”。そんな正反対ともいえる人格の“エンジン”を、ガガは18か月かけて動かせるように取り組んできたのだ。

 さらにスコット監督は言う。「レディー・ガガのショーは巨大です。でも彼女は自分が何をし、そのために何を準備すべきかを細部に至るまで熟知している。だからこそリラックスして演じているように見えるのです」と。

 そして本作でのスコット監督は、ルネサンス期の有名一族であるメディチ家に起きた成功と悲劇を、グッチ家に置き換えて風刺的に描くことを試みた。「グッチ」の創業者であるグッチオ・グッチは、メディチ家が支配したイタリアのフィレンツェ出身。スコット監督にとって、輸入鞄の販売と修理の店からグローバルブランドに成長させたグッチ家は、一市民からトスカーナ大公国の君主へと成り上がったメディチ家だったのだ。ガガに託した詳細な準備とは、たぶんそれを表現できるだけの知識を得ることだったのだろう。

 その栄枯盛衰をスコット監督は、パトリツィアの約30年の半生に集約させた。そしてガガは、パトリツィアの20代から50歳近くまでをその身で表現することで、世にまん延する危うさと不条理を際立たせて見せた。

 メディチ家とグッチ家、どちらも最終的に血筋とはまったく関係ないところの手に渡る皮肉。そこに込められたテーマとは……ぜひ実際にご覧いただいた上で見出していただきたい。

 ちなみに『アリー/スター誕生』に本作と、シリアスな作品が続いたガガが次にやってみたいのは、「ロマンチック・コメディ」だそうだ。

『ハウス・オブ・グッチ』2022年1月14日(金)より全国公開 配給:東宝東和 (c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。