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東京パラ銅メダリスト 美馬アンナさんに明かした複雑な思い 競技と勝利のバランス
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楽しいだけではない…競技と勝利を突き詰める難しさ
アンナ:そうした現状の中でプレーしている4人の女性選手は、とてつもなく強いメンタルの持ち主じゃないかと思うんですよね。そのメンタルの強さはどうしたら生まれるのか。これは母として気になります。
倉橋:私が車いすラグビーをやっているのも、日本代表としてパラに出たいと思い始めたのも、いろいろなスポーツを経験した中で一番楽しかったからなんです。怖さを感じることもなく本当に楽しくて、うまくなりたいと思ったんです。
アンナ:それでも金メダルを目指すとなると、楽しむことが難しい時もあるのでは。
倉橋:いざ強化指定選手になって他の選手と日本代表の座を競い合ったりプレーの質を高めたりとなると、楽しいだけではうまくいかないことも確かにありますね。ここ数年「私、今ほんまに楽しいんかな?」と考えることもよくあります(笑)。しんどいこともたくさんありますが、練習の後に「今日は楽しかった」と思うことの方が多いので、競技そのものは好きだし楽しい。ただ、その中でコンディション調整の難しさは感じています。
アンナ:具体的にはどういう難しさなのでしょう。
倉橋:2、3年前から肩に痛みがあり、うまく付き合いながらプレーしています。大会には自分が一番動ける状態で出たいし、そうしなければダメだと思うので、練習やトレーニング内容を考える時でも常に肩のことが頭の片隅にありますね。
アンナ:私の夫は先発ピッチャーをしているので、週に1度登板する試合に合わせて体を調整する大変さは私も近くで感じています。夫がいつも言うのは「好きなだけではダメだ」ということ。「野球が大好き」という気持ちは大事だけど、勝つためにやらなければいけないこともある。第一線でプレーする選手にしか分からない大変さなのだろうと思っています。
倉橋:そうですね。しんどい中でも、競技と初めて出会った時に感じた「楽しい」という気持ちを大切にしないといけない。今まさに、その葛藤を感じている時期です。
アンナ:夫にも「今日は楽しかった」という日と「楽しめなかった」日があるので、気持ちが揺れ動く様子も身近に感じています。
<中編に続く>
1990年生まれ、兵庫県出身。中学、高校時代は体操競技に励み、教師の道を志して文教大学(埼玉県)に進学。トランポリン部に所属したが、3年生の時に練習中の事故で頸髄を損傷。鎖骨より下の感覚がほぼなくなり、車いす生活となる。大学への復学を目指してリハビリに励む中、車いすラグビーと出会いその虜に。2017年には日本代表に唯一の女子選手として選出され、2021年の東京パラでは銅メダル獲得に尽力した。クラブチームAXE所属。
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)