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伊藤沙莉が見せる「負けを知る強さ」 ドライバー役の絶妙な芝居につながった道とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

俳優人生はあと2年で20年 生き方すらも役に投影

 そして、そんな葉の姿は、偶然にも手にした俳優という仕事を、少しずつ時間をかけて“自分の生きる道”に変えていった伊藤沙莉ともかぶって見えた。

(c)2022「ちょっと思い出しただけ」製作委員会
(c)2022「ちょっと思い出しただけ」製作委員会

 驚くことに伊藤の俳優人生はあと2年で20年になる。俳優のタイプはさまざまだが、伊藤はその生き方すらも役に投影しているように思う。生き方を混ぜ込む配分とハスキーボイスが唯一無二のキャラクターを生み出す。このような形の演技を取り入れている俳優は多いようだがそうでもない。それはたぶん、誰もが持っている“ちょっと良く見られたい”というプライドが邪魔をするからだろう。

 松居大吾監督は、伊藤をキャスティングした理由を「ちゃんと体温が感じられて、光も闇も表現できる方に葉を演じてもらいたいと思って誰がいいかなと考えた時に、パッと伊藤さんが浮かんだ。彼女はキャリアが長く、きっと“負け”をたくさん知っているだろうし、転んでも立ち上がって走り出せるたくましさがある」と語る。

 タクシーの客になった、「昨日死にかけた」という安斉かれん演じる21歳のギャル、そして3人の酔客を演じた渋川清彦、松浦祐也、山崎将平に対して、ドライバーの葉は絶妙なリアクションをする。そのリアクション芝居に伊藤は、「負けを知る強さ」とはこういうことだとにじませる。

『ちょっと思い出しただけ』2022年2月11日(金・祝)全国公開 (c)2022「ちょっと思い出しただけ」製作委員会 出演:池松壮亮、伊藤沙莉 ほか 監督・脚本:松居大悟 主題歌:クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」(ユニバーサル シグマ) 制作・配給:東京テアトル

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。