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俳優のんに惹かれる理由とは 監督・脚本・主演作『Ribbon』までの道のりに見える内面

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

「数少ない友達」との齟齬も…それでも全身全霊で挑む映画作り

 そんな映画『おちをつけなんせ』を制作する舞台裏を全10回で描くYouTube Originalsドキュメンタリー『のんたれ(I AM NON)』。ナレーションは、「あまちゃん」でも共演した蔵下穂波。彼女は監督補佐として、留見の同級生の希枝役と河童役として、『おちをつけなんせ』に関わっている。

2020年、第33回東京国際映画祭のクロージングセレモニーで。大九明子監督の『私をくいとめて』が観客賞/東京都知事賞を受賞【写真:Getty Images】
2020年、第33回東京国際映画祭のクロージングセレモニーで。大九明子監督の『私をくいとめて』が観客賞/東京都知事賞を受賞【写真:Getty Images】

 ドキュメンタリー『のんたれ(I AM NON)』の面白さは、初めての中編映画に取り組む、のんのものづくりへの考え方、制作過程での成長、素の姿を見ることができるところだ。

 のんは『おちをつけなんせ』を作るために、まず是枝裕和監督や片渕須直監督に脚本の作り方について教えを乞う。照明に関しては『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)で日本アカデミー最優秀照明賞を受賞した中村裕樹に指導を、出演しながらの演出については『無花果の顔』(2006)、『火 Hee』(2016)で監督・主演を経験した桃井かおりに教えを乞うた。

 一流の映画人である彼らがのんに伝える言葉は、優しく丁寧ではあるが厳しい。彼らの指摘が間もなく撮影を始めようとするのんの考えを揺さぶる。

 撮影中は、「数少ない友達」とのんが言う蔵下穂波とも齟齬が生まれる。自分の思い描く世界観に忠実に作りたいと思うのんと、「映画をすべて1人で作るのは無理」(1人で作るスタイルの映画作家ももちろんいる)。だから「一緒に作りたい」と願う蔵下の気持ちが、すれ違ってしまったのだ。

 監督たちの助言がストレートであるのは彼女への愛からだろう。本気でものづくりに取り組もうとしている後進に、考え、選び取るための真実を伝えているのだ。そして蔵下との齟齬は、監督を務めた者すべてが経験したことのある状態。自分の作りたい世界観を1人では作れない“映画”という創作物で成立させるために、監督は頭の中にあるイメージを自分なりの方法で多くの人々に明確に伝えるしかないのだ。

 のんは自分にしか作れない“作品”を生み出すことには頑なだが、助言を受け入れないような意固地さはない。むしろ未知の世界であろうとたじろぐことなく、全身全霊で挑もうとしているだけなのだ。良くも悪くもひるむことなく、尊敬する人々にありのままの自分を見せようとする。自身を良く見せることなど考えもしない、のんの勇気にも感服した。