カルチャー
俳優のんに惹かれる理由とは 監督・脚本・主演作『Ribbon』までの道のりに見える内面
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プロのスタッフと初めて取り組んだ長編商業映画『Ribbon』
『Ribbon』は新型コロナウイルスの時代を生きる若者たちに贈る映画だ。のんの憧れである美大生を作品の主人公とし、卒業制作展が中止となり、その過程で「時間をかけて作ったものがゴミのように思える」事態を味わった美大生たちに共鳴して「彼らの無念を何とか晴らしたい」と脚本を書き進めた。
緊急事態宣言下で、音楽や映画や舞台などのエンタメや芸術の優先順位は下位にあるような発言が各所でなされたが、人はそんなエンタメや音楽やアートによって支えられて生きてきた。人々の心の中、世の中を構成する考え方のベースには、エンタメや芸術によってもたらされたものがある。そう考えると、「いてもたってもいられなかった」という。
本作はそんなのんが、プロのスタッフと初めて取り組んだ長編商業映画だ。前作よりスケールアップしたプロジェクトの中で、監督、脚本、主演の3役を務め、商業映画を完成させただけでも、ものすごい精神力だと思う。編集のクレジットがプレス資料にないことから、恐らく編集ものんが行っているのだろう。
前作の制作と大きく変化したのは「事前にビジュアルボードを作ったこと」だとのんは言う。伝えることの重要性を知り、具体的な行動で示したのだ。彼女は既定路線に乗ってしまおうとは思わない。彼女の映画作りは“製作”ではなく、“制作”なのだ。だからギリギリまで1人で作り上げながらも、必要なところではプロの力を借り、ともに作り上げるという新しいスタイルの映画作りの道を編み出そうともしている。
「かわいらしい」と一言で言ってしまうのがためらわれる。そんな彼女が生み出そうとしているのは、まだ見ぬ世界。それを生み出す重圧をものともせず立ち向かおうとするギャップに、私たちは惹かれてしまうのだろう。
『Ribbon』テアトル新宿ほかロードショー公開中(c)「Ribbon」フィルムパートナーズ
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。