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米アカデミー賞発表迫る『ドライブ・マイ・カー』 霧島れいかが引き受けた“リスク”とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 第94回アカデミー賞で作品賞など4部門にノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』。村上春樹さんの原作を巧みに表現した濱口竜介監督の演出には、海外でも高評価が寄せられています。その演出で一つのカギとなるのが、主人公の妻で若い男性と不倫関係にあった“音”。演じた霧島れいかさんは、本作が2作目の村上作品です。「難しい役だった」と霧島さん本人が語る“音”を通じて見ると、本作への理解がぐっと深まるかもしれません。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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米アカデミー賞で4部門ノミネート 演出にも高評価

 現地時間27日(日本時間28日)に米国で開催される第94回アカデミー賞。どの作品が受賞するか? 俳優や監督たちがどんな衣装で現れるのか? 世界で毎年注目される映画賞だ。

 今年は濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(2021)が4部門(作品賞、脚色賞、監督賞、国際長編映画賞)にノミネートされていることで話題。特に日本映画初となる作品賞、脚色賞部門でのノミネートは、新ジャンルのオスカー(アカデミー賞)をもたらすのではないかと期待されている。

 日本国内でもヒット中の本作は、米国でも37スクリーンで公開。上映館こそ少ないが、専門家のレビューの平均値から評価する映画批評サイト「Rotten Tomatoes(ロッテン トマト)」では批評家とレビュアーの肯定的レビューが98%に達している。

 多言語+手話による表現で「ワーニャ伯父さん」を劇中劇として成立させたこと、ワークショップに取り組む登場人物たちの感情を「ワーニャ伯父さん」とリンクさせて描いたこと。この2つのユニークな仕掛けでチェーホフ作品のテーマを浮かび上がらせたとして濱口演出にも高評価が寄せられている。

前後編で構成された物語 引っかかりをもたらす妻の存在

 原作は、村上春樹の短編集「女のいない男たち」(文春文庫刊)の収録作「ドライブ・マイ・カー」や「シェラザード」。これらのエッセンスを合わせて脚色した濱口竜介、大江崇允は、映画をざっくり前後編に分けて構成した。

 前編は、愛し合いながらも子どもを亡くしたことで脚本家の妻、音(霧島れいか)と距離ができてしまったように感じる俳優で演出家の夫、家福(西島秀俊)の物語。

 後編に登場する家福は、2年前に妻の音を亡くし、心を閉ざしている。ある日、ワークショップと演出の仕事を引き受けた広島の国際演劇祭で1人の女性ドライバーと出会う。寡黙で不愛想な彼女との出会いと、課題戯曲であるチェーホフの「ワーニャ伯父さん」の演出は、家福に生命力を取り戻させていく。

 演出も脚色も素晴らしい。ただどうしても引っかかってしまうのが、家福の妻、音の描かれ方だ。冒頭、美しい朝焼けの中、上半身を起こした音はセックスの間に浮かんだ物語を夫に語り出す。比較的はっきりした口調でその寝物語は語られる。