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米アカデミー賞発表迫る『ドライブ・マイ・カー』 霧島れいかが引き受けた“リスク”とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

音を亡くした後の家福が抱える“立ち直れないほどの痛み”とは何か?

 音は話すだけ話すと内容を忘れてしまい、翌日、家福が語り直したその内容を音はメモしながら脚本に落とし込んでいくという設定。

 引っかかったのは、ベッドの上でそれを語る音の姿勢だ。その時の音は、ほぼ朝焼けを背景にシルエットなのだが、8秒だけ窓側から撮影した音の背中のショットが入る。美しい裸体ではあるが、腹筋を意識していないとこの背骨の形にはならない。

 音は若い俳優、高槻(岡田将生)と不倫関係にある。家福は偶然それに気付くが、妻と互いに愛し合っていると思っているので、彼女がなぜ他の男と寝なければならないのか理解できない。

 ただ、こう考えると辻褄が合う。約20年連れ添った夫と迎える夜明けにもかかわらず、腹筋を意識せずには向き合えないと描くことで、2人の関係はすでに破綻していたとするのなら。

 前提がこれだとすると、音を亡くした後の家福が抱える立ち直れないほどの痛みとは何なのか? 伝え損なった真意をいかに伝えるかを、心を解き放つことで紐解いていく物語だからこそ、そう思えてしまう。

掴めそうで掴めない“音”像 演じた霧島れいかとは

 霧島れいかは、音がベッドの上で語るのは「音なりのコミュニケーション」なのだと語る。「音という人は、語ることで、夫や自分自身、社会とのバランスも取っているのだという気がしました」と。

(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 さらに子どもの13回忌の夜、家福とセックスをしながら物語を語る音。つま先をバレリーナのように空に突き上げ、取りつかれたように物語を語りながらオーガズムに達する。

 そんな音は狂気を感じさせた。のちにこの行為は娘の死を乗り越える2人の絆だと説明される。それでも未だ演出意図を理解できずにいる。“語る”とは音にとって本当は何だったのか? 家福にとって音はきちんと“生身”の女性だったのか? そんな思いにとらわれた。

 濱口監督は霧島に、音と家福の若い頃の話や何があったのかなど映画には描かれない部分を書いて伝えたという。「難しい役ではありましたが、そこまでやっていただいたので“音”という人物も理解しやすかった」と霧島は言う。なのに、なぜ私には“音”像が理解できないのか?