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上白石萌歌の人気に加速 『KAPPEI カッペイ』のヒロイン役も話題 “愛される”理由とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2022 映画『KAPPEI』製作委員会 (c)若杉公徳/白泉社(ヤングアニマルコミックス)
(c)2022 映画『KAPPEI』製作委員会 (c)若杉公徳/白泉社(ヤングアニマルコミックス)

 2月末に22歳を迎えた上白石萌歌さん。10歳で「第7回東宝シンデレラ」のグランプリを受賞して12年、第42回日本アカデミー賞新人俳優賞をすでに受賞している若手実力派です。今年は早くも複数の出演ドラマや映画で熱い注目を集め、18日からは最新映画出演作『KAPPEI カッペイ』が公開されます。本作での萌歌さんは、これまで培ってきた個性と存在感でさらに新たな魅力をプラスしているようです。そんな萌歌さんの魅力について、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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「物事を素直に受け止める」ことの難しさ

「物事を素直に受け止める」ことほど難しいものはないだろう。人が物事を受け止めようとするのは、“自分”=“ベース”を作るためだ。受け止めたものは蓄積して、自分を構築していく。しかし、自我が強ければ強いほど意思との調整が必要となる。たぶんクリエイティブであるほど、素直にものごとを受け止めるのは難しいのだ。

 だが、意思を鑑みることなく受け止めてしまうのは、従順なだけで素直とは言わない。その微妙なあわいを理解しつつ、世の中のさまざまなものを受け止められる感性を持つのは、なかなかに難しいことだと改めて思う。

 そんなことを強く思ったのは、Adieu(アデュー)の「よるのあと」という曲を聴いたから。「あなたが嘘をつかなくても生きていけますように」と歌うその澄んだ歌声は、満点の星を想像させる。同時に、日向の匂いも。それだけではない。怒りや悲しみ、そして祈りや希望さえも感じさせた。

 どんなふうに自我を構築すれば、こんなふうに多彩なイメージを表現できるのだろう。バイアスをかけずに多くの物事を受け止め、蓄積させ、そして思いをのせて解き放つ。簡単そうで困難なことをAdieuは変ト長調の「よるのあと」の歌にのせ、聴く者の心を浮遊させた。

思い通りに表現できなかった時は、それを振り返り理由を追究する

 ご存じと思うが改めて。シンガーのAdieuとは、上白石萌歌が音楽活動を行う時の名前だ。

 まだ22歳ながら10年の芸歴を持つ萌歌は、自分の肩書をあえてはっきりさせないような形で、演技や歌に取り組んでいる。芸能界入りのきっかけは、現在は俳優である姉、上白石萌音と一緒に受けた「第7回東宝シンデレラ」のオーディション。ダメ元で一緒に応募し、史上最年少の10歳でのグランプリ受賞となった(萌音は審査員特別賞を受賞)。

 地元の鹿児島では姉とともにミュージカル教室に通っていたこと、両親が音楽や観劇好きであったことなど、音楽や演技への親しみは人一倍あった。しかし、元々はかなりの“人見知り”。ただ歌を歌っている時だけは人前であっても気にならなかったという。

 東宝シンデレラのオーディションでは、むしろ人に聴いてもらうこと、演じることが心から楽しいと思えたらしい。「まだ何も分かっていなかったからかもしれませんが」と。

 歌も演じることも、技術的なことを知れば知るほどゴールは遠のき、表現することに恐怖を感じる瞬間がある。萌歌は「お芝居には慣れることない」と言う。思い通りに表現できなかった時は、それを振り返り、なぜそうできなかったのかを追究するのだと。

 自分の失敗を検証することほど、つらい作業はない。大人であれば酒の一杯でも飲んで忘れてしまいたいようなもの。恐れずにそれに挑めるのは、かなり強靭なハートの持ち主でもあるのだと思う。