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食した郷土菓子は約500種類! 自転車で50か国超をめぐったパティシエが見つけた世界

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著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

東日本大震災をきっかけに再びヨーロッパへ 自転車旅の始まり

 しかし、運命はまた林さんを海外へ引き寄せました。京都から東京に引っ越し、郷土菓子作りが忙しくなり始めた頃の2011年3月、東日本大震災が発生。お菓子を提供するイベントがことごとく中止になり、時間的な余裕ができたことで「もう一度、ヨーロッパに行きたい」と思い立ちます。そしてビザを取得し、フランスに1年間滞在することにしました。

 フランスではワインを造るブドウ畑で働きましたが、ワインのシーズン後に訪れるクリスマスやバレンタインデーには菓子店で働きたいと考えました。ドイツとの国境付近にあるアルザス地方がクリスマスシーズンになると特ににぎわうと知った林さんは、同地方で有名な菓子店15軒ほどに「働きたい」とメールを送ります。1軒だけ面接までこぎつけた菓子店で幸運にも採用され、アントルメ(ホールケーキ)の部署に配属されました。

「ビザが切れるまで約8か月働いたのですが、そもそも自分がフランスに住んだ理由はいろんな国のお菓子を食べたかったから。でも菓子店さんは忙しくて、結局どこへも行けなかったんです。このままじゃ日本に帰れない。そうしたことから『自転車で旅をしながら日本まで帰ったら面白いな』と思ったんです」

 思い立ったが吉日。アルザスの自転車屋さんで「日本まで帰りたい」と伝え、「この自転車がいいよ」と店主が選んでくれた一台を購入しました。

 スタート時の所持金は日本円で約20万円。帰国までは約1年半かかると想定し、1日に使える金額は約3ユーロ(約500円弱)でした。そこで林さんは宿泊施設の利用を諦め、民家をアポなしで訪問。「泊めてもらえないか」と交渉したのです。

「当たり前ですけど、まったく泊めてもらえないんです。でも、何軒も当たっていると『いいよ』と泊めてくれる家が見つかります。持ち歩いていたバッグの一つに和菓子作りの道具と材料のセットを詰めていたので、泊めていただいたお礼にお団子を作っていました」

旅先で現地の人々から教わった言葉をメモしたノート【写真:Hint-Pot編集部】
旅先で現地の人々から教わった言葉をメモしたノート【写真:Hint-Pot編集部】

 3か月ほどそのスタイルで旅を続けていましたが、ボスニア・ヘルツェゴビナのとある田舎町で、泊めてもらった家の人たちから盗難に遭ってしまいます。カメラやパソコン、スマートフォンを盗まれたことで危険だと判断し、そこからは安宿を利用することにしました。

「ただ、どんなに安くても宿代で1000円程度はかかるので、1日の予算500円をオーバーします。『だったらもう食べたいものを食べよう』と我慢しなくなったら、その後3か月ぐらいで所持金はなくなってしまいました」