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食した郷土菓子は約500種類! 自転車で50か国超をめぐったパティシエが見つけた世界
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林さんが考える郷土菓子の定義 その背景にあるものとは
そこで資金集めとして、旅で出会った郷土菓子を紹介するレシピや自転車旅の記事などを掲載したフリーペーパーを発行。そこに広告枠を設け、細々と資金を調達しながら旅を続けました。
「本当に“自転車操業”じゃないですけど、ちょっとずつお金が入ってきて旅を続けたんです」
500種類以上食べた郷土菓子で印象深いのは、バクラヴァ。トルコをはじめ、中東地域を代表する郷土菓子で、薄く伸ばした生地を何層にも重ねた中にピスタチオを1層入れて焼き、シロップに浸したものです。
「一番感動したのが、ピスタチオのうまさでした。あれは日本では絶対に食べられないと思います。トルコの南東にガジアンテプという町があって、ピスタチオが有名なところなんです。その町の老舗バクラヴァ店で食べたものがとにかくおいしい。ピスタチオがふにゃふにゃにやわらかくて、香りも良く、味も濃くて、贅沢が詰まっていました」
郷土菓子は、その街や土地に根付いたもの。林さんはその定義を「長年、その土地に根付いているというのが第一」として、「長く続いていなくても、その土地に行ってどこのお店でも同じ菓子を作っていたら、それは郷土菓子といえる」と考えています。
「郷土菓子には、宗教やその土地で採れるもの、伝統的な模様が強く関係しています。例えば、フランスはキリスト教の文化なので、キリスト教のイベントごとに郷土菓子がありました。イスラム教の地域では、その土地で採れるものや伝統的な模様が郷土菓子に使われています。それに、宗教上で食べられないものは郷土菓子に使われていませんでした」
そうした背景もまた、郷土菓子への興味をかき立てられる所以だそう。さまざまな知見を得た林さんの自転車旅は、トータルで約2年半に及びました。そして、帰国して約8か月後の2016年7月、旅先で出会った郷土菓子を堪能できる念願の「Binowa Cafe」を原宿にオープンしたのです。
夢は100種類の郷土菓子を揃えるショーケース 郷土菓子を通じて伝えたいこと
現在の林さんには、着実に計画を進めている新たな夢が2つあります。まず一つは「100種類の郷土菓子を揃えるお店を持つこと」。
「実は昨年に100種類の郷土菓子を作ったのは、その先にやりたいと考えていることがあったからです。それはお店のショーケースに100種類の郷土菓子があって、そのショーケースが世界を表していたら面白いなあという考え。とはいっても、100という数字にこだわらずたくさんの種類を出せたらと思っています」
そしてもう一つは、「子ども向けのお店を持つこと」です。
「自分の世代は海外に行く人とまったく興味がない人に分かれていて、“海外離れ”といわれるほど興味がない人が意外と多いんです。海外ではこんなに楽しくて貴重な体験ができるのに。だから、海外に興味を持つきっかけになるようなお店を子ども向けに展開できればと考えています」
コロナ禍で海外に行きにくい今だからこそ、原宿で世界を感じることができる……郷土菓子で縮まる世界との距離。それが、林さんが望む世界なのかもしれません。
高校卒業後に専門学校「エコール 辻 大阪」に入学。フランス・イタリア料理課程で料理を学ぶが、卒業後は“郷土菓子”の世界に足を踏み入れる。訪れた国は50か国以上、食べた郷土菓子は500種類以上。自転車旅を終えて帰国した2012年7月、東京の原宿に「Binowa Cafe」をオープンした。
(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)