Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

どうぶつ

単身でドイツに渡ったサッカー記者 “猫とともに生きる”暮らしを築いた道のりとは?

公開日:  /  更新日:

著者:島崎 英純

愛猫からの信頼で気付いたペットを家族にする覚悟

“彼女”との新生活4日目の朝、根負けした僕は「今日も鳴きやまなかったから、シェルターに帰すしかない」と決意していました。今にして思えば、勝手にシェルターから連れ出したのは僕の方なのに、何て身勝手な振る舞いなのだと思います。

 ふと我に返ると、突如僕の目の前に現れた“彼女”が、けたたましい声で何かを訴えかけています。数日間のストレスが溜まりに溜まっていた僕は「もう、勘弁してよ……」とつぶやき、煩わしさを跳ね除けるように布団を煽って立ち退かせようとしました。

 すると、ホコリまみれの風を浴びた“彼女”は苦しそうに咳をして、その澄んだ眼から一筋の涙を流しながら僕の足元へ近づき、自らの温かな頬を何度も何度もすり寄せたのです。その瞬間、僕は激しい悔悟の念とともに、恐らく僕だけを頼りにする“彼女”を、かけがえのない家族の一員として迎え入れる覚悟を決めたのでした。

 結局、病気がちだった初代愛猫との生活は約6年半という短い期間になりました。その別れの経緯は、またの機会にお話ししましょう。そして2代目愛猫、すなわち現在日本の実家で主として振る舞っている“彼”とは、すでに約11年の付き合いです。

 そうして、もはや猫とのふれあいなくしては生きる意味さえ見出せなくなっていた僕は、単身ドイツに降り立ってしばらくしてから、驚愕の事実に気付きました。

「ドイツには猫が一匹もいない!」

 これはのちに大いなる誤解だと判明しました。ただ、ドイツに移住してから約3か月が経過しても、僕はフランクフルトの街中で猫を一匹も見ることができなかったのです。

(島崎 英純)

島崎 英純(しまざき・ひでずみ)

1970年生まれ。2001年7月から2006年7月までサッカー専門誌「週刊サッカーダイジェスト」(日本スポーツ企画出版社刊)編集部に勤務し、Jリーグ「浦和レッドダイヤモンズ」を5年間担当。2006年8月にフリーライターとして独立。2018年3月からはドイツに拠点を移してヨーロッパのサッカーシーンを中心に取材活動を展開。子どもの頃は家庭で動物とふれあう環境がなかったが、三十路を越えた時期に突如1匹の猫と出会って大の動物好きに。ちなみに犬も大好きで、ドイツの公共交通機関やカフェ、レストランで犬とともに行動する方々の姿を見て感銘を受け、犬との共生も夢見ている。