仕事・人生
蔵元7代目になった元専業主婦 火災、地震、豪雨…困難に立ち向う背後には社員への愛
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さまざまな分野で活躍する女性たちにスポットライトを当て、その人生を紐解く連載「私のビハインドストーリー」。前回は東京で専業主婦として暮らしていた井上百合さんが地元の大分県日田市に戻り、218年続く家業「井上酒造」を継承するまでのお話でした。今回の後編は、後継者になった井上さんに次々と押し寄せた火災や地震、豪雨といった困難と、それらをどのように越えてきたのかについてお話を伺いました。
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バランスシートも月次レポートさえ読めない 融資を受ける銀行を頼りに成長
国の登録有形文化財に指定されている蔵を所有する「井上酒造」。その代表を務めるのは7代目の井上百合さんです。家業を継ぐため地元・日田に戻ってきたのは約8年前。酒造りも経営も何も分からない中で継ぎました。
「帰ってきて困惑したのは月次が読めないことでした。バランスシートも分からない。これは経営者として致命的でした。経営会議では内容が理解できず、聞き慣れない用語をひらがなで書き取り、夜中にインターネットで検索する日々。結局は埒が明かなくなり、メインバンクに『分からないことが分かりません。10年後も分からないでは話にならないので教えてください』と言って、財政状態を初歩から学びました。
そうして経営状況や資金繰りを学ぶ中で、早急に経営改善に取り組む必要があるのではと思い始めました。これは一大事です。銀行に相談し、『大分ベンチャーキャピタル』に協力いただいて、3年分の経営改善計画の策定に着手しました」
井上さんはまず、「株式会社井上酒造」としての経営理念を定め、各部署に落とし込んでいきました。そこからは、経営改善計画書の数字を追う日々が始まります。重要箇所に付けられたマーカーだらけの分厚い計画書をいつも枕元に置き、夜中も確認できるようにしているそう。いわば、井上さんの「お守り代わり」でもあります。この他にも、日田に帰ってきてからの日々は一筋縄ではいかない苦労の連続でした。