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仕事・人生

蔵元7代目になった元専業主婦 火災、地震、豪雨…困難に立ち向う背後には社員への愛

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

熱意を持って帰郷するも待っていたのは困難の嵐

「乗り越えなくてはいけない大きな壁が次から次に現れて、息つく間もなく走り続けています」

 かつての井上酒造は6000石ほどあった大きな蔵元でしたが、売り上げは減少傾向に。井上さんはおおよその想像はしていながらも、「こんなことになっているなんて知らなかった」と頭を抱えました。

 そんな時、蔵でボヤ騒ぎが発生。蔵の扉を開けると、火柱が上がっています。井上さんはすかさず消火器を手にして食い止め、最終的には東京から専門業者を呼んでリカバリーに努めたため、大惨事を免れることができました。

「朝礼でみんなに謝りました。申し訳なさすぎて、胸が締め付けられる思いでした。保険でカバーできたのは不幸中の幸いです。2016年には熊本地震が発生。11年には東京で東日本大震災を経験しており、また震度5を超える地震に故郷で遭うとは思ってもみませんでした」

2017年九州北部豪雨後の井上酒造【写真提供:井上百合】
2017年九州北部豪雨後の井上酒造【写真提供:井上百合】

 熊本地震では美しい熊本城が崩壊したショッキングな様子が記憶に残っているでしょう。実は大分も甚大な被害を受け、観光の街として知られる日田市でも観光客の足が遠のきました。さらに2017年7月には、九州北部を中心に猛烈な雨が降り続いた九州北部豪雨にも見舞われます。地震後、営業努力でどうにか持ち直していた井上酒造でしたが、今度は豪雨で倉庫が流されてしまったのです。

「資材倉庫付近の被害が最も大きく、資材は泥まみれになり貯蔵タンクも濁流に飲まれました。処分した瓶は4000本です。あんなに美しかった故郷が、たった一晩で破壊されてしまった。道なき道をたどって出社した2人の男性社員が呆然と立ち尽くす後ろ姿は、今でも忘れられません。翌日からは優先順位を決めて泥をかき出し、約1か月かけて倉庫の復旧にこぎつけました」