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80年代「伝説の花組」はなぜ誕生したのか? 元トップ高汐巴さんが語る宝塚の世界

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・瀬谷 宏

インタビュアー:竹山 マユミ

花組を支えてくれた大浦みずきさんの存在 「私を主役として認めてくれた」

宝塚時代に一期後輩だった未沙のえるさんと。高汐さんの初舞台50周年記念公演で共演。未沙さんは高汐さんの退団後に花組で組長だった【写真提供:高汐巴事務所】
宝塚時代に一期後輩だった未沙のえるさんと。高汐さんの初舞台50周年記念公演で共演。未沙さんは高汐さんの退団後に花組で組長だった【写真提供:高汐巴事務所】

竹山:それはやはり、トップになられてからずっとそういう空気を作っていかれたということですよね。

高汐:意識的にそうしたのではなく、自然な雰囲気の中で結果的にそうなったのだと思います。「とにかく主役だから自分がすべて」ではなく、皆さんに支えてもらっているという感覚がありました。優等生ではなかったのでできない人の気持ちもわかる。だからずっと「私自身」でいました。作り事もなし、計算もなしですね。

 その時、2番手(トップに次ぐポジション)だった大浦みずきさん(1974年入団、60期)は子どもの頃からダンスもやっていて大変に優秀で、下級生が尊敬するような人だったんです。それに引き換え、私はというと頼りないし、みんなが「ペイさん(高汐さんの愛称)頑張ってくださいよ」とちょっと心配するような存在でした。その分、愛情を持っていただけたということでもありますね。本当にそういった温かさはいつも感じていて、そこにすごく感動していたと思います。気持ちや心というのはちゃんと通じるってことですよね。

竹山:サヨナラショーを映像で拝見していても、組の方たちがみんな号泣していましたね。観客席からの嗚咽も聞こえてくるくらいで、ちょっと見たことがない光景でした。

高汐:あの舞台から2作前くらいの時、稽古場で演出家の方が「次の公演で高汐さんは退団します」と発表したんです。もうその稽古はみんな泣いちゃって、稽古にならない感じでしたね。桜の季節だったから、今も桜を見るとその時のことを思い出します。

 舞台ってやっぱりパズルみたいな感じなんです。オーケストラや演出の方、スタッフなど、舞台作りは一つのパーツが抜けても出来上がらない。だからそれで全部、みんなの気持ちも一つになります。ファンの皆さんに「すごく素敵な組だった」とおっしゃっていただけるのは、今でも誇りですね。

竹山:舞台を作り上げる情熱は素晴らしいものがありますね。

高汐:やっぱりゼロから80人で舞台を作っていくのは、本当にすごいことなんですよ。集団でダンスをしたり、歌の練習をしたり、芝居の稽古をしたり。なかなかできない子たちも引っ張り上げたり、なだめたり、時には叱ったり。そこで人間としても成長していけるすごい場所なんですよね。

竹山:退団公演の時に大浦さんは怪我をなさっていましたが、それでも高汐さんを送り出したいという気持ちも伝わってきました。

高汐:大浦さんも最初の頃は、私をライバルとして見ていたと思います。私なんかは実力のない劣等生のトップスターと主役でしたから。2番手(トップに次ぐポジション)として(花組に)来た彼女はダンスもできるし、さまざまな葛藤があったと思います。でも、一緒に舞台をやっていく中で「ペイさんは、自分にはできないことができる人だなと感じた」と言っていました。

 その中で、彼女は私のことを認めて、それできちんとリスペクトして、私を主役として支えてくれました。たくさんの複雑な思いを乗り越えて、それができるのは人として深いし、素晴らしいことだと思います。2番手の人がそういう気持ちになったことも、(当時の花組が)うまくいった理由の一つだと思います。

竹山:トップスターになられてからもいろんなご経験ができたようですね。

高汐:すごい経験ができましたね。一番良かったこと、それは、やはり「任される」ということです。その中で私は、下級生たちに言い続けてきたことがあるんです。

<次回に続く>

◇高汐 巴(たかしお・ともえ)※「高」ははしごだか
京都府京都市出身。1972年に宝塚歌劇団入団(58期)、愛称は「ペイ」。当初は星組に配属されたが、その後に複数の組替えで雪組と花組を行き来した。1983年9月に花組トップスター就任。低く艶のある甘い声と圧倒的な存在感で悲劇やコメディ、歴史物など華麗な舞台を演じ切り1987年12月に退団。退団後は銀座博品館劇場、松竹座、御園座、明治座の公演などに数多く出演。その他、テレビドラマやトーク番組、CMなどで幅広く活躍。最近の主演舞台は「Dream Weaver「黒蜥蜴」~闇物語~」(2020年12月。三木章雄脚本・演出)、独り舞台「BLACK & SHADOWS」(2021年6月、高平哲郎脚本・演出)、朗読劇「ショパンとジョルジュサンド ノクターン~帰らざる日々」(2021年10月、三木章雄演出・北阪昌人脚本)。現在、大阪芸術大学芸術学部客員教授。著書に「清く正しく美しく」(日之出出版刊)がある。

○高汐巴初舞台50周年記念公演「Respect Me!」
【日時】4月28日(木)午後6時~、29日(金):午後1時~/午後6時~、30日(土)午後1時~
【会場】あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター・東京都豊島区)
【出演】高汐巴 未沙のえる 秋篠美帆 福麻むつ美 月影瞳
【作・演出】三木章雄(宝塚歌劇団) 【音楽監督】栗山梢
【主催】「Respect Me!」製作委員会、高汐巴事務所 【共催】豊島区
【金額】8500円
【公式サイト】高汐巴オフィシャル ウェブサイト
【チケット申し込みサイト】https://www.quartet-online.net/ticket/respectme

(Hint-Pot編集部・瀬谷 宏)

(インタビュアー:竹山 マユミ)

竹山 マユミ(たけやま・まゆみ)

明治大学卒業。広島テレビ放送のアナウンサーを経てフリーアナ、DJとして各テレビ局やラジオ局で番組を担当。コーピングインスティテュート コーピング認定コーチ。宝塚歌劇団は生まれる前から観劇するほどの大ファン。