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今から見頃! 奈良の都で咲き誇る希少品種・ナラノヤエザクラ 専門家に聞く深い歴史
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桜の開花予想に用いられている品種といえば、ソメイヨシノ。この他にも多くの品種が存在することはよく知られているでしょう。その中には、まさに今から見頃を迎える遅咲きのものも。皇室に献上されたこともある品種、ナラノヤエザクラもその一つです。その名の通り奈良県奈良市に生息し、歴史と文化の上はもちろん、植物学的にも大変貴重だそう。そんなナラノヤエザクラについて、「奈良八重桜の会」会長の上田トクヱさんにお話を伺いました。
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小さな気品ある花姿のナラノヤエザクラ 植物学的にも貴重な品種
学生時代に覚えた「百人一首」。その中に「いにしへの奈良の都の八重桜 けふここのへに匂ひぬるかな」という伊勢大輔の歌があったことを覚えていますか? 実はここに登場する八重桜は、奈良に現存しています。それが今回ご紹介するナラノヤエザクラ。奈良にある八重桜の総称ではなく一つの品種であり、奈良県の県花と奈良市の市花に制定されています。
「つぼみの時は濃い紅色、咲くと薄いピンク色になり、散り際にまた赤く色変わりします。清楚で控えめ、小さな気品ある花姿です。植物学的にも貴重な品種とされています」
上田さんはナラノヤエザクラの魅力をこう語ります。また、伊勢大輔の歌には前日譚にあたる物語もあるそうです。
「平安時代に一条天皇が在位していた頃、中宮の彰子(藤原彰子)がこの桜を所望したため、興福寺の東円堂前にあったナラノヤエザクラが運び出されようとしました。すると、興福寺の僧兵が『いかに中宮の思し召しであろうと大切な桜、命に代えても持ってやらさぬ!』と奪還。中宮は僧兵の優しい心根を褒めて『花守』を授け、その返礼として興福寺からは一枝のナラノヤエザクラが毎年献上されることになりました」
それを見た伊勢大輔が詠んだ歌こそ、「いにしへの奈良の都の八重桜」だと言われているそう。この他にも「奈良に八重桜があった」という事実は、「七大寺巡礼私記」や「詞花歌和歌集」、「徒然草」など多数の歌集や物語に残されています。