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今から見頃! 奈良の都で咲き誇る希少品種・ナラノヤエザクラ 専門家に聞く深い歴史
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大正時代に“再発見” 現在は奈良公園内に約800本
ナラノヤエザクラをこよなく愛する上田さん。同会を発足させたきっかけは「あまりにかわいく美しい桜なのに一般にあまり知られていないので、少しでも多くの人に知ってもらいたい」との思いからでした。
「この桜のいわれを教えてくれたのは、当時に奈良国立博物館の館長夫人だった西川昭代様です。この桜に会うのを楽しみに東京から赴任され、ようやく会えた喜びを短いエッセイにまとめられましたが、その翌年に亡くなられました。とても理知的で優しさがあり美しく、それでいて控えめな女性でした。私には彼女とナラノヤエザクラが重なって見え、憧れの女性像として一体になっています」
ナラノヤエザクラがあまり知られていない事情としては、大正時代に事実上“再発見”されたという流れも。この際に見つかった場所は、東大寺知足院の裏山でした。大正12年には「知足院ナラノヤエザクラ」として国の天然記念物に指定されましたが、平成21年の強風で倒れ、その後に枯死。そのため、県森林技術センターで同じ遺伝子を持つことが確認された成木が移植されています。
「天然記念物の指定は通常、木を含むエリア一帯にあるものですが、現在は植樹された1本があるだけです。これが原木で、他の木はこの木からバイオで育てられたものとなります」
この木を原木とするナラノヤエザクラは現在、奈良公園内に約800本。公園内での目印は、木に取り付けられたプレートか小さな水色のテープです。
「私がおすすめする鑑賞スポットは、奈良公園バスターミナル(奈良県庁内)の南です。ここは興福寺の東円堂があった場所のため、シンボルとして植樹がされています。また、奈良県庁の東側、昔の京街道に沿った転害門辺りと奈良国立博物館には、会が2009年に当時の天皇皇后両陛下(現在の上皇上皇后)に献上した献上木も。さらに、興福寺境内の五重塔前や北円堂前などにも20本以上あります」
この献上木は平安時代の「献上物語(沙石集)」にちなみ、その現代版として実施。花の選定は有名な造園士に依頼し、箱に詰められた形で献上されました。献上後は侍従長から「聖武天皇にゆかりある美しいナラノヤエザクラを即位20年の記念の年にいただいて、とてもお喜びでした」と伝えられたそうです。