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小林聡美の出演作が記憶に残る理由とは 最新作『ツユクサ』に見える“余白に引き込む力”

著者:関口 裕子

(c)2022「ツユクサ」製作委員会
(c)2022「ツユクサ」製作委員会

 今年5月で57歳を迎える小林聡美さん。昭和40年代生まれにとっては、まさに“肩を並べて同じ時代を歩いてきた”といえる俳優でしょう。名作と呼ばれる青春ドラマや映画、人気沸騰した深夜ドラマ、北欧ブームを大きく高めた映画などに出演し、唯一無二の光を放ってきました。ただし、その光はいわゆる“スター”のまぶしいものとは少し違っているかもしれません。出演作の多くにしても、ドラマチックな事件や展開がないにもかかわらず、なぜか記憶から消えない不思議な魅力を持っているものばかり。その理由を探るにおいて、映画最新主演作『ツユクサ』は見逃せない作品のようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

 ◇ ◇ ◇

執筆した文章や出演作などから見えるセンスの良さ

“おめざ”という言葉を認識したのは、たぶん小林聡美のエッセイ「東京100発ガール」(幻冬舎刊)だ。漠然と「甘いものを摂取するなら朝がいい」ことは知っていたが、“朝食べる甘いもの”を指す名詞があるとは知らなかった。しかも発音するとかわいい。「お・め・ざ」。小林家には昔からおめざの習慣があり、エッセイには「おめざのない朝なんて考えられない」と書かれている。このような習慣を“持っている”ことになるのだろう。憧れを感じた。

 そんな家族に培われたものなのかもしれないが、小林はセンスがいい。例えば結婚会見の時、カメラマンからの「腕を組んでください」の注文への返し。期待されていたのは夫と腕を組むことだろうが、小林らはそれぞれが胸の前で腕組みしてみせた。

 文章もうまい。小林が連載する「サンデー毎日」(毎日新聞出版発行)の書評コーナー「SUNDAY LIBRARY」は、何といっても“まくら(冒頭につけられた導入部)”が面白い。それを楽しみにして読んでいるうちに、本を購入してしまうことは多々ある。さまざまな媒体で披露される俳句もだ。日常を眺める視線の優しさ、面白さ。以前は故・柳家小三治師匠らが創設した「東京やなぎ句会」のメンバーでもあった。

 もちろん本業である俳優としても、出演作品のチョイスがいい。代表作『転校生』(1982)では、同級生の一夫(尾美としのり)と心が入れ替わってしまう少女、一美を演じた。性別が入れ替わった男女を俳優の演技力のみで表現しようとした大林宣彦監督は、俳優事務所から演技力のある若手を推薦してもらいその中からキャスティングしたので、小林が“選んだ”わけではないかもしれないが。

 でも、フィンランドの首都ヘルシンキで和食カフェを営むサチエを演じた大ヒット作『かもめ食堂』(2006)は、小林が選んだもの。大きな事件は起こらないが、日々の暮らしを丁寧に積み重ねる中で好ましいものを見つけ、それらに囲まれていくサチエの生き方は魅力的だった。公開後、フィンランド観光を希望する日本人が激増し、「マリメッコ」や「アラビア」などフィンランドブランドの認知度も爆上がりするなど、撮影を行ったフィンランドにも貢献した作品となった。

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