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小林聡美の出演作が記憶に残る理由とは 最新作『ツユクサ』に見える“余白に引き込む力”

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

観る者に「“自分の映画”だ」と強く思わせる何かがある作品

 最新主演作となる平山秀幸監督『ツユクサ』もこの流れだ。小林は50歳目前の芙美を演じる。友人たちとのささやかな交流を楽しみに、喪失の記憶を持つ人の多い海辺の町で1人慎ましやかに暮らす芙美にとって、毎日は奇跡のようなもの。

 心惹かれる篠田(松重豊)と公園で草笛の練習をすることも、友人と他愛ない話をすることも、遭遇する可能性1億分の1の隕石に車を打ち抜かれたことも、芙美は同じように奇跡だと思っている。そこが良い。

(c)2022「ツユクサ」製作委員会
(c)2022「ツユクサ」製作委員会

『ツユクサ』を含めてこれまでの出演作はどれもコマーシャルなものではないが、観る者に「“自分の映画”だ」と強く思わせる何かがあった。だから、記憶が薄れることなくずっと存在し続ける。この“自分の映画”だと思わせる部分には、小林が醸すものが大きく作用していると思う。

 小林の俳優デビューは、中学2年生の時に出演した小山内美江子脚本の「3年B組金八先生」(1979・TBS系)。「ドラマはよく観ていたけれどやったことはなく、面白そうだった」のでオーディションを受けてみたという。

 杉田かおる、鶴見慎吾、野村義男、田原俊彦、近藤真彦、つちやかおりといった名子役と有名アイドルで構成されるクラスの一人としてすんなり合格。小林本人は「たいそうな志を持って始めたわけではない」と言っているが、平均視聴率24.4%という大ヒットドラマで非凡な存在感を見せた。

 その後、深夜枠なのに高視聴率を記録した「やっぱり猫が好き」(1988~2007・フジテレビ系)、高い評価を得た「すいか」(2003・日本テレビ系)などに出演。これらのドラマでファンになった人は多いだろう。

 映画では『めがね』(2007)、『プール』(2009)、『マザーウォーター』(2010)など、『かもめ食堂』からのスタッフとも充実した環境での作品作りを展開していく。その間、1995年に30歳で結婚を、2011年に離婚を経験。離婚前には、長考していた大学での日本文化履修を実行し、世界をさらに広げた。