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小林聡美の出演作が記憶に残る理由とは 最新作『ツユクサ』に見える“余白に引き込む力”

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

「芸能界では生きにくいだろう」と小林を評した樹木希林

 小林が醸すものとは何か? もしかするとそれは、観客が物語に入り込んで想像することができる“余白”なのかもしれない。

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 演じる方法にはいろいろなやり方があるが、小林は少なくとも“憑依型”ではないし、勢いでたたみかけるタイプでもない。役との間に客観的かつほどよい距離感を取り、台本に描かれる物語から感じ取ったイメージを的確に形にしていくというか。たぶんそのほどよい距離が余白を生み出す。

 だから、小林の演じる役に、一方的に物語を発信するものは少ない。私たちを余白に引き込み、一緒に思考させる形で供給する。『転校生』に例えると、一美の肉体を持つ小林が“一夫”を演じるのではなく、私たちに一夫の思いを共有させ、物語を考えさせるというか。

 だから入れ替わった後の2人はこう見えた。一夫の肉体をもつ一美は“女の子”に、一美の肉体を持つ一夫は“少年でも少女でもないもの”に。ちなみに大林監督は後日こう言っている。「まだ肉体的にも、感情的にも完成していない15、6歳。入れ替わった時は男女両方の感情を具有している」はずだと。

 そんな演技者としての小林を当時から見ていた俳優がいる。『転校生』では一夫の母を演じ、のちに是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』(2016)で小林演じる千奈津の母を演じた樹木希林だ。樹木は小林にこう言っている。「まだ多感な年頃なのに、撮影現場での度胸の良さはすごいなと思って見ていた。同時に、芸能界では生きていきにくいだろうと感じた」と。

是枝裕和監督の『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭に参加した時の樹木希林。同作は最高賞パルム・ドールを受賞した【写真:Getty Images】
是枝裕和監督の『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭に参加した時の樹木希林。同作は最高賞パルム・ドールを受賞した【写真:Getty Images】

 そこで「何で分かりました?」と尋ねた小林に、「小林さんには嘘がない。そこは気持ちが良い。でも繊細すぎるほど繊細だから芸能界では生きにくいだろう」と答えた。

 そうなのだ。それが良い悪いと言うつもりはないが、たぶん小林の演技に余地があるのは、自分を前に出そうという力がまったく働いていないからだ。脚本から引き出した設計図に沿って演じる小林は、自分に酔ったり、勢いを借りたりする必要は、ほぼないだろう。

 そんな風に、小林が「俳優には向いていない」と思いながらも仕事を続けてこられたのは、「私で何かをやりたいという人がいたから」だという。答えは出なくても、求められる限り応えてみようと。

 ただしパブリックイメージになっている「元気で明るい女性」も、「自分のやりたい道を歩く清々しい女性」も、「自分の中にないわけではないが、求められるイメージであって、自分自身ではない」と話す。その客観性がある限り生きづらくはあるが、演じていくのだろう。