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池脇千鶴が高校生男子の母役 『マイスモールランド』が“良い仕事”に見える理由とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2022「マイスモールランド」製作委員会
(c)2022「マイスモールランド」製作委員会

 有名CMシリーズで芸能界デビューを果たし、40歳を迎えた現在も映画やドラマで活躍を続ける池脇千鶴さん。NHK朝の連続テレビ小説「ほんまもん」のヒロインやスタジオジブリ作品の声優などを通じて、国民的人気を獲得しています。30代からは母親役にも挑戦している池脇さんの映画最新作は、高校生男子の母親役を演じた『マイスモールランド』。日本在住のクルド人少女を主人公にした作品でも、やはり池脇さんでなくては務まらない絶対性を見事に感じさせているようです。池脇さんがこれまで大切にしてきた作品などについて、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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日本にやってきたクルド人たち その娘を演じるのは人気モデル

 雑誌「ViVi」(講談社発行)で活躍している嵐莉菜という専属モデルが初主演を果たした映画がある。嵐はTikTokのフォロワーが約24万人いる人気モデル。その映画は是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」に在籍する新鋭、川和田恵真監督の『マイスモールランド』だ。下調べなしに試写を観始め、冒頭の結婚式の場面の既視感に驚いた。

 この風景、観たことがある。それは以前、住んでいたJR「川口」駅(埼玉県川口市)のロータリーで行われていたクルド人の祭り「ネウロズ」だった。ネウロズは2600年前に起源を持つという伝統的な祭りで、クルドの新年にあたる3月21日に開催される。

 ネウロズで女性たちは「ハライ」というダンスを踊る。「ハフタン」と呼ばれる美しいクルドの伝統衣装に身を包んだ女性たちが隣の人と小指をつないで輪になり、リズムに合わせてステップを踏みながらその輪を回転させる。映画では結婚式の場面だったが、祝福する人々が踊るダンスは、このハライと似ていた。

 当時、川口市や蕨市にクルド人が多く住んでいることは知っていたが、一堂に会する姿を見たのは初めて。屋台でケバブをつまんだり、踊りの輪に加えてもらったりと、その日の暖かさも相まってとても楽しい記憶になった。

 そもそもクルド人が川口市や蕨市に集まるようになったのには、こんな理由があるそうだ。民族としての国を持たなかったクルド人は、第一次大戦後、彼らが住んでいたイラン、トルコ、イラク、シリアの山岳地域に国境が定められたことで分散され、それぞれの国でマイノリティになった。

 1980年代以降、クルド人独立運動が起きるとともに弾圧が始まり、家や家族を失ったクルド人らが、トルコの一般旅券を所持していればビザ不要(現在は3か月以内。職業、生業または報酬を受けるその他の活動に従事する場合を除く)の日本に逃げてきた。ただし難民認定していない日本では「特定活動」という不安定な身分。それも認められなくなると行動や仕事が規制される「仮放免」となり、違反すると出入国在留管理庁の収容所に収監される。

『マイスモールランド』は、まさに父親がそんな状況になって、追い込まれた女子高生の物語だった。