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池脇千鶴が高校生男子の母役 『マイスモールランド』が“良い仕事”に見える理由とは
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自身でなければ成立しないエリアを早々に獲得 置き換えがきかない存在に
それにしても池脇千鶴が17歳の少年の母親役とは! 池脇は今年40歳。年齢的にはおかしくはない。ただ彼女自身が17歳だった時に、市川準監督の『大阪物語』(1999)で夫婦漫才師(沢田研二と田中裕子)の娘役を演じた記憶があまりに鮮やかだからこそ、たまに驚いてしまうのだ。
1981年生まれで大阪府出身(生まれは鹿児島県)の池脇は、1997年にバラエティ番組「ASAYAN」(テレビ東京)が主催した「三井のリハウス」CMオーディションを勝ち抜き、第8代リハウスガールとしてデビューした。
犬童一心監督の『金髪の草原』(1999)では、自分を若いと思い込んでいる老人宅のヘルパーになる少女・なりすを演じた。同じく犬童監督の『ジョゼと虎と魚たち』(2004)で演じたジョゼは、祖母と暮らし足が不自由で本と料理が好きというキャラクターで、ファンタジーでありながら生々しく、生活感もある役。池脇は早々に彼女でなければ成立しないエリアを獲得し、俳優として置き換えがきかない存在になっていった。
もちろんそれ以降の代表作もたくさんある。呉美保監督『そこのみにて光輝く』(2014)では働き通し詰めの上に体を売って家族を支える女性を、阪本順治監督『半世界』(2019)ではいじめに悩む15歳の息子を持つ炭焼き職人の妻を演じている。どちらも映画賞を総なめし、高く評価された。
昨年主演したドラマ「その女、ジルバ」(東海テレビ)でも、実年齢とほぼ同じ役を演じて第47回放送文化基金賞番組部門演技賞を受賞した。恋も仕事も微妙、将来への不安を抱える40歳の女性が、高年齢のホステスがいるバーで働き始めたことで生命力を取り戻していく物語だ。
第1話ではずいぶん老けたのではないかと容姿が話題になった。だがそれ以降、どんどんと生気を取り戻し、きれいになっていった。それがまた話題になる。要するに役作りなのだが、池脇にはそういうやや悪意のある報道すらも味方につけてしまうような大きさがある。
2児の母親を演じた呉美保監督『きみはいい子』(2015)でも、プロデューサーから太るように言われたという。彼女は自分がどう見えるかというより、役のためにそうすべきだと思うことはやる俳優なのだ。
彼女が繰り返し言っている言葉がある。「良い映画に出たい」。いつの時代もこれは変わらない。彼女の言う「良い映画」とは、単純に製作予算の高い作品や主役である作品ではないのだろう。池脇が「物語にちゃんと溶け込んで、そこで生きたいというのはずっと変わらない」と言うように、物語を届くべき人にきちんと伝える役目が果たせ、彼女がそうできるように関係者も同様に考えている作品のことなのだろう。
そういう意味でも『マイスモールランド』、とても良い仕事をしている。
『マイスモールランド』 5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開 配給:バンダイナムコアーツ (c)2022「マイスモールランド」製作委員会
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。