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池脇千鶴が高校生男子の母役 『マイスモールランド』が“良い仕事”に見える理由とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

クルド人の女子高生が心をつなぐ母子 池脇千鶴の演技が光る

 嵐莉菜が演じるのは高校3年生で優等生のチョーラク・サーリャ。教師を目指し、大学の推選入学が決まりかけた矢先に父親が収監される。収入源を失い、東京のスーパーマーケットでのアルバイトも就労ビザがないためにクビになり、八方ふさがりの状態。

 そんなサーリャの唯一の安らぎは、バイト先の店長の親戚で同じ高校3年生の同僚、崎山聡太(奥平大兼)。聡太とサーリャは互いの家を訪ねることで、それぞれの国の文化に触れ、同時に自分の置かれている状況を冷静に分析することになる。

(c)2022「マイスモールランド」製作委員会
(c)2022「マイスモールランド」製作委員会

 サーリャが総太の家を訪ねたシーンでまたまた心がざわついた。総太の母親、崎山のり子を演じていたのが池脇千鶴だったからだ。のり子は夕飯の手伝いを買って出たサーリャの、まな板を使わずに野菜を切る包丁の使い方に驚く。この切り方しか知らないのだというサーリャを、「すごい切り方。でもいいね!」と肯定する。

 またのり子は食事中、出入国在留管理庁収容所の話になると、素直に「想像が追い付かない」と吐露する。方法は異なっても“料理”という自分も知るカテゴリにあることなら想像をめぐらし理解に努める。だが、クルド人の置かれている状況についてはこれまで知る機会がなく、分からないことを認めた上で理解しようとした時、出た言葉が「想像が追い付かない」。とてもリアルだった。

 この短いシーンで総太のさまざまな背景を補填したのは、池脇のなせる業だ。サーリャはバイトをクビになる時、「総太の母親が心配しているのでもう彼には会わないでほしい」と店長から言われる。その言葉に感情を高ぶらせるがやがて理解するのは、きっとあの食卓でのり子が「親は子どもが幸せなのが一番。お父さんも同じことを思ってるよ」と本音を聞かされたからなのだと感じた。