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広瀬すずの確実な成長 『流浪の月』で見せた“キャラクターに力を与える”演技とは
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演じたキャラクターの守護神かのよう…広瀬が発したパワー
そんな「流浪の月」が李相日監督によって映画化された。物語のメインは、圧倒的に力を持たなかった“子ども”の2人が15年後に再会してから。ファミレスでアルバイトをしながら恋人の中瀬亮(横浜流星)と同棲中の25歳の更紗を広瀬すずが、クラシカルなカフェ「calico」のオーナーとなった34歳の文を松坂桃李が演じている。
今年24歳になる広瀬は、更紗とほぼ同世代。姉の広瀬アリスが所属する事務所の社長から声をかけられ、14歳で芸能界入りした。その頃は子どもで、大人の言うことは絶対だと思っていたので「勧められたオーディションを断り切れなかった」と述懐している。逆に屈託のない子どもゆえ、大人や業界のしきたりにおもねるところがなく、周囲が「大胆だ」と感じる発言も多々あった。
そこから10年を経て大人になった広瀬は、『流浪の月』の更紗と同じように自分1人で歩けるだけの経験値と勇気を身に付けた。それだけではない。信頼とパワー、そしてストレートに物事に切り込む発言力さえも魅力としたように思う。
更紗も少女の時から十分自分で未来を切り開いていける強さを持っていた。その強さが固く閉ざしていた文の殻を壊し、彼を解放したのだ。だが、2人が引き離された後の現実生活は、更紗にその力を発揮することを許さなかった。むしろはつらつと生きることを許さないというか、逃げ場を失ったかわいそうな“事件の被害者”としておとなしくしていることを強要するような空気が彼女を包む。
職場での更紗は目立たないスタッフとして、そして亮(横浜流星)の従順な彼女として暮らしている。それでも相手が自分の優位性を示し、明らかに彼女の力を封じ込めようとしていると分かると「私はかわいそうな子ではない」と反論していた。
後半になるにしたがってその声は大きくなっていった。更紗の声を大きくさせたのは、「更紗は更紗だけのものだ。誰にも好きにさせちゃいけない」と彼女を全肯定する、再会した文の存在だ。もう一つ違うベクトルから更紗を支えた存在がある。それは広瀬が更紗の守護神かのように発したパワーだ。演じ手と役の連動感が、なおの説得力を持たせたように思う。