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吉岡里帆がアニメの新人監督を熱演 『ハケンアニメ!』に見える“守りたい存在”とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

やっていることに愛を持った人々がそれを貫こうとする物語

 主人公は伝説のアニメ『光のヨスガ』で監督デビューし、8年ぶりとなる新作『運命戦線リデルライト』で再始動するアニメ監督の王子千晴(中村倫也)と、国立大を出て堅実に県庁で働いていたにもかかわらず『光のヨスガ』と出合い、「観ている人に魔法をかけられるようなアニメを作りたい」と大手アニメーションスタジオのトウケイ動画に転職した斎藤瞳(吉岡里帆)。

(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 斎藤は監督デビュー作『サウンドバック 奏の石』が王子監督と同じクールで同時間の放送になり、王子作品を超えたいと闘志を燃やす。

 劇中には「子どもの頃にこれに出合っていたら人生はもう少し豊かに変わっていたかもしれない」という斎藤監督の言葉がある。幼い頃、家が貧しかった彼女は、自分の環境とはほど遠い“魔法少女もの”の主人公に興味が持てなかった。しかし、普通の少女が魔法を使う『光のヨスガ』と大人になってから出合い、この作品によって自身を肯定されたように感じたのだ。

 確かにその気持ちは分かる。例えばつい最近、動画配信サービス「ディズニープラス」でリリースされたアニメ「私ときどきレッサーパンダ」。大人になる過程で少女が味わう理不尽と真正面から向き合った傑作だ。理不尽に感じることを、少女性という男性目線のファンタジーで“仕方ない”と片付けないところに、「子どもの頃、出合っていたらどうだっただろう」と同じように感じた。

『ハケンアニメ!』は、そういった作品との出合いが創作心を突き動かす、やっていることに愛を持った人々がそれを貫こうとする珍しいタイプの作品だ。

刺激を受けて飛び込む…吉岡里帆と演じたキャラクターの相似点

 吉岡は本作で演じた斎藤監督と少し似ているように思う。元々書道家を目指し、大学で学んでいた吉岡は、映画監督を目指す友人に誘われて、大学1年の時に『天地明察』(2012)のエキストラに参加。そこで映画作りの面白さに触れ、アルバイトでお金を貯め、親に内緒で東京の養成所に通い始めた。2012年末には現在の事務所に自ら志願して所属。2013年からプロの俳優として活動を開始している。

 体験したことに刺激され、その世界に飛び込んでしまうところはまさに斎藤監督。たぶん生真面目なところも似ているのだろう。猫好きであることも共通しているようだ。脚本を作る際、吉岡に寄せたのかもしれないが。

 作品との相似点で印象に残ったのは、斎藤監督の気の使い方だ。キャラクターとして「覇権を取ります」と言いきれる強さを持つと同時に、言い回しやネゴシエーションなどで半端ではなくスタッフに気を使う。王子監督が失踪したり、締め切り直前で強硬に内容変更を求めて女性プロデューサーの有科(尾野真千子)を振り回したりするのとは対照的に描かれる。

 俳優としての吉岡の気の使い方は、「我を出しすぎず、無色透明でいて、その作品に染まっていきたい」というもの。自分にその役が振られた理由を重視してのことだ。

 でも、もしそこに納得のいく形で到達できていないと感じた際は「もう一度演じたい。解釈について話し合いたいと言える勇気は持っていたい」という。デビュー作で成長していく斎藤監督の心情を、吉岡は実体験的に理解しているのかもしれない。