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仕事・人生

ピーナッツバターがつなぐネパールとの笑顔の輪 日本人女性の挑戦

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

工場で働く8人の女性が仕事から得た自信と成長

 現地アシスタントや通訳などのネパール人スタッフが面接官となり、「自分自身の成長を会社の成長につなげたいと強い気持ちを持っていた」8人を厳選。限定しなかったものの、合格者は全員女性でした。これには現地の事情が大きく影響していたそうです。

 コタンは男性が出稼ぎに行き、女性は家事や育児、農業や家畜の世話をするのが一般的。学校を卒業しないまま10代で出産することも多く、読み書きができずに「自分たちはお金を稼げない、何もできない存在だと思い込んでいる人が多いんです」。そこへ日本からやってきた女性が工場を建て「みんなで成長しましょう」と熱く語る姿に、「女性でもできるんだ!」とコタンの女性は一歩踏み出すきっかけを見たのかもしれません。

ピーナッツの選定作業をする、現地工場で働く女性たち【写真提供:仲琴舞貴】
ピーナッツの選定作業をする、現地工場で働く女性たち【写真提供:仲琴舞貴】

 新たな挑戦に心躍らせる8人は、開業前のオリエンテーションで衛生管理や働くことについて学び、自分たちで仕事のルール作りに挑戦。実際にピーナッツバターを作る工程では、現地を訪れた桑折さんの指導に従い、手際良く作業。あっという間に合格サインが出たといいます。リーダーシップのある人、細かい作業が得意な人など、自然と役割分担ができ、「彼女たちのようにちゃんと能力を持ちながら、チャンスがないからそれを生かせていない人たちがきっと世の中にはたくさんいるんだろうなと思いました」。

 ピーナッツバターを作り始めて4年余り。8人の女性たちは、以前にも増して目を輝かせながら仕事に励んでいます。仕事に生きがいを感じ、コロナ禍での休業中も届くのは再開を願う声。仲さんが約1年半ぶりに現地へ赴くと、自分たちが作るピーナッツバターが日本で喜んでもらえているのか、聞かれたといいます。そこで彼女たちが作るピーナッツバターが大好きで毎朝スプーン1杯食べている5歳の男の子の写真を見せると「何て良い子なの!」と感動しきり。そんな彼女たちの姿を写真に収め、その男の子に送ってみると、今度は日本で大きな笑顔が咲きました。

「読み書きができなくても、プライドを持って仕事に取り組み、それを心から楽しむことで、人は生き生きと輝ける。そこに生まれる幸せは周りに伝染していく、と思いました」

 工場を始める際、「コタンの人たちが幸せになる」ことを目指そうと決め、そのために「働く人が仕事を通じて自分の成長を楽しむ形の雇用を生みたい」と考えていた仲さん。「今のところはできているのかな」と照れ笑いします。

出産後もピーナッツバター工場で働いている現地の女性【写真提供:仲琴舞貴】
出産後もピーナッツバター工場で働いている現地の女性【写真提供:仲琴舞貴】

 自分は衛生管理を学んでちゃんと理解していると誇る女性がいたり、自信を持って働く母の姿に「大きくなったらお母さんの工場で働きたい」という子がいたり、日本語に興味を持つ子がいたり。ピーナッツバターという商品を介しながら、ネパールで、日本で、関わる人々の生活にインパクトを与えているのです。

◇仲琴舞貴(なか・ことぶき)
家業の美容室の経営や、コンビニのリサーチ職などを経て、IoTサービスを提供するスタートアップ企業に転職したことをきっかけに、ネパールの東部に位置する村・コタンを訪問。現地の様子に触れ、一念発起してピーナッツバター工場を建設。現在は株式会社SANCHAI代表として、工場で村の女性たちを雇用し、特産の品種未改良ピーナッツを使ったピーナッツバターを製造・販売している。

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)