カルチャー
日本人俳優が感じた「これぞハリウッド」な瞬間とは 苦節10年で世界的な話題作に出演
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楽しんで生きることを常に意識して、充実した日常生活を
――2013年、渡米されて2年目にエージェントと契約されたそうですね。
SAG(映画俳優組合)と契約している約160社にヘッドショットやレジュメ、カバーレターを送り、興味を持ってくれたエージェント約20社を、連絡をくれた順に訪ねました。面接では、インタビューやコールドリーディング(初見で台本を読むこと)を行ったり、モノローグを演じたりすることもありました。最終的に納得のいくエージェントと契約できたと思います。
――ロサンゼルスではいろいろなオーディションを受けられたと思います。電話がかかってきた30分後にはオーディション会場に行かなければならない、という状況もあったそうですね。例えば、エマ・ストーンが『ラ・ラ・ランド』(2016)で演じた俳優の卵に、ご自身が重なることはありましたか?
オーディションのシーンなどにはそう思うこともありました。アルバイトをしていて抜け出しづらいとか、コマーシャルのキャスティングはまったく相手にされないとか、ちょっと厳しいところに共通点を感じました。
――一方、ロサンゼルスで撮影されたイスラエルのドラマ「Very Important Person」では、俳優としてオーディションに受かったにもかかわらず、着物の知識がない衣装さんのために小物を持参してエキストラへの着付けも手伝ったとか。
日本舞踊の師範名取でもありますので。日本舞踊を学んだことは、自分で着付けができたり、所作などでも役立っています。
――もし伝統文化的な面に間違いがあれば、正しい方向を示唆することもできますね。俳優として活動の場をロサンゼルス、ハリウッドに見出して10年。安生さんは自らの手で場を切り開き、成長されてきました。時には一人の人間として落ち込むこともあったと思います。ご自身が見出した、そんな時の解決方法を教えてください。
理想になかなか手が届かず苦しみもがいたり、努力が報われなくて泣いたりしたこともありました。でもそれらの経験はすべて、表現に生かせると思っています。
私は自分のことを過小評価してしまいがちですが、大切なのは自分を肯定して信じてあげること。しっかりと休み、時々自分を解放し、楽しんで生きることを意識して、気持ちを守ることを大切にしています。日常に「好き」を積極的に取り入れていくことが大事だなって思います。
『リコリス・ピザ』TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー公開中 配給:ビターズ・エンド、パルコ(c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
○写真
スタイリスト:大塚由美子、ヘアメイク:国分玲香、衣装:ADELLY(Office surprise)03-6228-6477、アクセサリー:Osewaya(お世話や)
昭和音楽大学短期大学部ミュージカル科の卒業公演で主役を務め特別賞を受賞。卒業後、アップスアカデミーにて米国の演技手法を学ぶと同時に、日本舞踊正派西川流に入門し師範名取となる。時代劇の舞台やテレビの現場で経験を積み、2011年に本格渡米。映画の名門である南カリフォルニア大学などの短編作品に参加。学業を続ける傍ら、コミックオペラ「ペンザンスの海賊」にケイト役で出演。渡米10年目にして、ポール・トーマス・アンダーソン監督最新映画『リコリス・ピザ』の撮影に臨み、さらに米テレビ局NBCの人気ドラマ「グッドガールズ:崖っぷちの女たち」シーズン4にも出演。映画とテレビでの同年デビューを果たした。現在暮らしているサンフェルナンド・バレーは、アンダーソン監督が育ち活動拠点にしている街で『リコリス・ピザ』の舞台でもある。
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。