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「日本の食品廃棄は独特」 日本人女性が取り組むフードロス解消のための信念とは

公開日:  /  更新日:

著者:柳田 通斉

古米がアルマーニのリゾットに 前例がないからこそ生まれる新たなコラボ

新潟県産米を厳選して配合した「れすきゅう米」を使用したスナップエンドウのリゾット【写真提供:ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社】
新潟県産米を厳選して配合した「れすきゅう米」を使用したスナップエンドウのリゾット【写真提供:ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社】

 そして、同社では今年5月から、古米に関する取り組みをスタートしています。

「イタリア料理のリゾットは、カルナローリ米を輸入して作るのが通常ですが、種類を選べば『古米でも作れるのでは』と思いました。日本では新米が好んで食べられので、古米は増える一方です。保存するには倉庫代がかかるので、食べられることなく、肥料になったりしています。

 ならば、わざわざコロナ禍で便数が少ない中、航空機に乗せてCO2を出してまでして日本に持ってくることはせず、おいしい日本米を『リゾット用に』と考えました。実際にこの春からは、『アルマーニリストランテ』では、古米でアルデンテ(歯ごたえの残る)なリゾットが作られています」

 2人きりの会社だけに、交渉用の資料はほぼ2人で作成。交渉の場で「前例がないので」と言われた際は、「前例がないからこそやりましょう」と返しているそうです。

 しかしながら、フードロスは根深い問題です。日本では、食べられる状態で廃棄される食品のフードロスは、約570万トン。世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量の1.5倍に相当します。さらに、570万トンのうち261万トンが家庭から出るフードロスだといわれており、山田さんはこう呼びかけます。

「一人ひとりが身近なフードロス、ウェイスト問題を考え、取り組んでいくことこそが大きな意味を持ちます。そして、私は今後もフードロスに限らず、社会課題の解決を考え、行動していきたいと思っています。

 先日、比叡山延暦寺(滋賀県大津市)のご住職が『伝統は革新の繰り返しです』とおっしゃっていました。延暦寺には1200年、消えない『不滅の法灯』がありますが、一つのこと、一つの手法にしがみつくと火は消えていたという意味で、『フードロスバンクのように規模が小さくても、動きが速くて、女性や国際的な視点を持つ会社が入ってくると、日本の伝統もより良い形になっていきます』と……。

 とてもありがたく、励みになりました。そして、『大企業だからできること』『私たちだからできこと』で、多様性をうまく生かし合えれば良いと思いました」

人と人のつながりから生まれる新しいこと 挑戦はまだまだ続く

 社会課題は数多くあり、山田さんは、佐賀県SDGsアドバイザーや岐阜県の認定委員など、地方自治体との仕事も多く手がけています。16年には米国のワーナー・ブラザーズ社と契約し、日本の人気漫画を原作としたハリウッド映画『進撃の巨人』のプロデュースを進行中です。そして、一人で子育てに奮闘する一児の母。海外とのやり取りなども含めて多忙で、睡眠が2時間になる日もあるそうです。

 さまざまな活動を続ける日々。山田さんは多くの人と出会っていますが、「人見知りはまったくしない」と言います。そして、人と人とをつなげ、互いが喜び合えるようにする。それを信念としています。

「つなげることが目標ではないですが、今までつながらなかったところがつながることによって、新しいことが起きたりすると面白いですよね。先日も、豆を作る農家さんに『アルマーニ』を紹介した後、『こんなすごいブランドさんにうちの食材を使ってもらって、お陰で他のレストランからも注文が来ました』と連絡が入りました。そんな時は、心から『良かった~』と、幸せな思いになります」

 次はどんなコラボレーションを生み出すのか……。山田さんは今後も社会問題を解決しつつ、たくさんの“win-win”をもたらしそうです。

◇山田早輝子(やまだ・さきこ)
東京都生まれ。聖心女子大学文学部英文科卒。住友商事を経て、2000年に米国に単身留学。慈善活動に取り組む中で映画プロデューサー業を開始し、アル・パチーノ主演、監督の「ワイルド・サロメ」などを手がける。2011年に米国を離れ、英国とシンガポールに居住。2018年からは生活の拠点を日本に置き、2020年に株式会社フードロスバンクを設立。フードロス問題への取り組みなどで、SDGs時代の象徴的な存在として注目を集めている。

(柳田 通斉)