仕事・人生
中高6年間の車いす生活経て演劇の世界へ 注目の劇作家・根本宗子さん「自然な道だった」
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国語嫌い、読書も苦手 演劇は1年に100本以上を鑑賞
小学校に入学して早々、母親に勉強嫌いを公言した根本さん。中学生の頃は特に国語が大嫌いだったそうで、今の仕事を考えると想像できない一面です。とりわけ、「作者は何を伝えたかったのでしょうか」という設問に辟易したのだそう。
「『それを作者に尋ねてみたのですか?』と先生に聞いても、ふわっとした答えしか返ってこないんです。だとしたら、この作者は自分が書いたものを勝手に解釈され、どう感じているのだろう、ってずっとモヤモヤしていました。そこで、自分が感じたことを率直に書いたら×印を付けられました。そのうち先生が求める答えが分かってきたので、それを書いたら○印です。これを学んでもためにならないと感じましたね」
そうしてだんだんと自分の未来像が見えてきた頃、演劇に関わることが「自然だった」そうです。
「演劇を観ることで、自分にフィットした作品から、授業では得られない面白いものを発見できました。私が人生で真剣に向き合ったのは、モーグルと演劇だけ。モーグルの夢が破れて自分は何になるんだろう、という時期に出会ったのが演劇でした。なので、演劇に関わることがごくごく自然な道だったし、演劇に出会えていない自分を想像すると恐ろしいですね」
演劇に傾倒してからは年に100~120本、中高6年間で合計およそ700本を鑑賞。その反面、小説はほとんど読んでいないそうです。高校を卒業するまでに大槻ケンヂさんの本はすべて読み終えましたが、他は戯曲しか読んでいませんでした。
高校卒業後の進路については、少しだけ迷いがありました。母親から「大学を出ておけば演劇で失敗しても就職先がある」と進学を勧められたため、演劇科のある大学のオープンキャンパスを見学。しかし大学に4年通うのなら、演劇に自力で4年没頭した方が得策だと判断し、19歳で劇団「月刊『根本宗子』」を旗揚げ。
「私が何かを決断する時って、大怪我をしたことがすごく影響しているんですね。明日はどうなっているのか分からないので、今日できることはその日のうちに片付けてしまおう、という考え方が高校生の頃から確立されていました。ですから『演劇をやりたいのならやっておこう』という結論に至ったわけです」
独特の視点と世界観で描いた劇作が評判を呼び、短期間で人気劇作家の仲間入りを果たしました。
「ここ数年の私を切り取ってもらうと、すごくスピーディに成功した印象を持たれる方が多いと思いますが、最初の3年ほどはお客さんが2人しかいない中での公演もざらにありました」
苦労時代もあったと語る根本さん。そこからどのようにして現在の称賛を勝ち得たのでしょう。後編に続きます。
メイク:小夏
スタイリスト:田中大資
衣装クレジット:tanakadaisuke
1989年生まれ、東京都出身。劇作家、演出家。19歳で劇団「月刊『根本宗子』」を旗揚げし、独特な物の見方で描かれる劇作で高評価を獲得した。2016年に初めて岸田國士戯曲賞の最終候補となってから、現在までにノミネート4回。著書に「今、出来る、精一杯。」(小学館刊)、「もっと超越した所へ。」(徳間書店刊)がある。
(河野 正)